そして40歳を前に 栗林さんは故郷への移住を決断する。
「自然豊かな環境で 思う存分
虫たちを撮影しよう」。
そこには 至る所に虫たちがいた。
これ以上ない環境だった。
でも それが
大きな落とし穴となった。
救ってくれたのは
またも虫だった。
女王アリの子育てを
撮っていた時の事。
かつて見た光景を思い出した。
「昆虫をただ撮影するのではなく→
虫たちの感情が
伝わってくる写真を撮りたい」。
既製品に
頼っていてはいけないと→
「虫の目レンズ」を
20年がかりで開発した。
(シャッター音)
虫たちが語りかけてくるような写真に 世界が驚いた。
栗林さんを救ってくれたのは
いつも虫だった。
長年 思い描いてきた
人生の終わり方がある。
(栗林)ちょっと待った
ちょっと待った。
♪♪~
ハイ チーズ。(撮影者)もう一枚。
写真家人生の
集大成を懸けた戦いが→
始まろうとしていた。
80歳になる 来年5月→
東京で個展を開きたいと
考えていた。
東京での個展は5年ぶり。
思い立ったのには 訳があった。
プロの昆虫写真家になって半世紀。
常に最前線に立ち続けてきた。
だが近年は
映像に力を入れるあまり→
写真家として 第一線を
退いたと思われていた。
集大成となる写真展。
目玉にしたい昆虫がいた。
(シャッター音)
長年 追いかけてきた…
9か月に及ぶ幼虫の期間を経て
一生の最後に まばゆい光を放つ。
その生き様に 今の自分に
通じるものを感じていた。
撮影ポイントに定めたのは
自宅から車で 10分の川。
幼虫が陸に上がる様子から
撮り始める事にした。
幼虫の上陸は
雨が降った暖かい日に限られる。
栗林は 雨を待つ事にした。
だが それから3週間上陸に十分な雨は降らなかった。
ようやく降ったのは
4月中旬になってから。
この川では 幼虫の上陸のピークは
例年3月。
既に その時期を過ぎていた。
さすがの栗林も 焦りの色が濃い。
1か月後 成虫が乱舞する様子に
懸けるしかない。
だが 気がかりな事があった。
個展の目玉に考えていた ホタル。
栗林は追い込まれた。
5月。
ホタルの成虫が舞う
勝負の時期を迎えた。
栗林は この時のために→
絶好の撮影ポイントを見つけていた。
水面ギリギリに カメラを据え
ホタルの光と その光が→
水面に反射する様子をとらえる。
だが ただでさえホタルの光は淡い。
多く集まって初めて
求める一枚となる。
果たして
どれだけ飛んでくれるか。
夜7時半。 ホタルが飛び始めた。
だが やはり数が少ない。
この日 理想の一枚を撮る事は
できなかった。
翌日も川に向かった栗林に
思いがけない事が起きた。
(栗林)おっとっと!
膝を傷め 立ち上がれなくなった。
昔のように
体は言う事を聞いてくれない。
だが栗林は
屈する事を良しとしない。
撮影を始めて6日目。
連日 現場に足を運んでいたものの→
満足のいく写真は
一枚も撮れていなかった。
ホタルの舞う時期のピークが