試合が終わったあとだった。
決着がついたにもかかわらず
なおも 鈴木を攻めたてる。
王様に 火がついた。
鈴木は 暴走。
内藤は この顔。
熱く語る ファンたち。これこそが 内藤が望むプロレスの姿。
日本のプロレス その始まりは 力道山。
必殺技の空手チョップに国民は歓声を送った。
今も必殺技は プロレスの 華。
(実況)内藤が飛びついての デスティーノ!
内藤は 逆上がりをヒントに生み出した…
古典的な技を 芸術の域に昇華させたレスラーもいる。
(アナウンス)オカダ・カズチカ~!
看板レスラー オカダ・カズチカのドロップキック。
それは 会場をどよめかせる。
打点は 高さ2メートルに到達する。
このドロップキックには
オカダならではの工夫がある。
ヒットさせた直後
体をそらせた分 迫力が増す。
受け身が難しく
けがのリスクは高まるが 果敢に挑む。
それだけではない。
観客を熱狂させるためとなれば相手の攻撃を受けにいく。
こい おら~!
プロレスラーたちに受け継がれてきた流儀。
あえて 受ける。
それが レスラーの 矜持。
だが その代償は少なくない。
酷使してきた内藤の体は ボロボロ。
特に膝は深刻で 1か月に1度
水を抜かなければならない。
♪♪~
何ですかね…
♪♪~
そういう感じで。
この日 内藤が実家に案内してくれた。
部屋には 少年時代から通ったプロレスのチケット。
当時 内藤が憧れたのが
正統派レスラー 棚橋弘至。
その背中を追って 高校3年の時
一歩を踏み出す。
元プロレスラー
アニマル浜口のジムに入り→
プロレスの基礎を徹底的に学んだ。
そして 23歳の時 日本最大のプロレス団体の入門テストに合格した。
並外れた運動神経に 甘いマスク。
棚橋のあとを担う逸材として期待を一身に集めた。
だがそこに 一人の天才が立ちはだかった。
(アナウンス)オカダ・カズチカ~!
5歳年下の オカダ・カズチカ。
190センチの長身から繰り出されるドロップキックは 圧巻。
何よりも自分にはない スター性があった。
みんな なっちゃったんで…
内藤は焦りを募らせ
試合中に じん帯を断裂。
リハビリに 黙々と励んだ。
だが 8か月後。
リングに復帰した内藤は
残酷な現実を思い知らされる。
31歳 後がない内藤は
思い切った行動に出た。
チャンピオンのオカダに
挑戦状をたたきつけたのだ。
(実況)内藤哲也 リングに向かいます。
しかし沸き上がったのは ブーイング。
(ブーイング)
ファンは もはや内藤を求めてはいなかった。
この日以来 内藤は「とんだ勘違い野郎」と
ファンから そっぽを向かれた。
試合の度 ブーイングが
耳にこだまするようになった。
だが こびるほど ファンは離れていった。
あれだけ好きだったプロレスが嫌いになった。
内藤は逃げる思いで 日本を飛び出した。
プロレスの聖地 メキシコで 出直す。
だが そのプロレスは衝撃的だった。
ファンの反応 おかまいなし。
ブーイングにも どこ吹く風。
日本では考えられないほどむちゃくちゃだった。
だが ひとつきが過ぎた頃
思ってもみない感情が湧いてきた。
内藤の中で 何かがはじけた。
「どう見られるかを気にするのはもうやめにしよう」。
(アナウンス)内藤哲也~!
32歳 内藤は日本に戻った。
ブーイングを浴びようとも
存分に暴れてみせる。
反則 挑発。
なりふりかまわず 何でもやった。
そして迎えた あの因縁の相手との試合。
(実況)デスティーノ~!
ブーイングは 大歓声に変わっていた。
(実況)完全に両国の空気を制圧しました。
あっ もう…
♪♪~
♪♪~
9月中旬。内藤は 地方巡業の ただなかにあった。
三重県を皮切りに