新しい仕事に慣れることができず→
30年近く勤めた店に辞表を出したのは
それから間もなくのことだった。
小幡さんのもとには
全国の大手菓子メーカーから→
高額な給料で来てほしいと
依頼が殺到した。
しかし 全て断った。
向かったのは 佐竹さんのふるさと日之影町に程近い 山あいの町。
栗農家の廃業に あえいでいた町が
小さな工場を用意し→
菓子で村おこしをしてほしいと
頼んできた。
栗は安く買いたたかれ
農家は やる気を失っていた。
あの日之影町と同じ状況だった。
小幡さんは 菓子作りなどしたことのない村人たちに→
根気強く教えた。
1年 2年 3年が過ぎた。
少しずつ 納得のいく栗あんが
炊けるようになっていった。
やがて その栗あんを求め
山あいの小さな工場に→
東京や大阪から
仲買人が押し寄せるようになった。
小幡さんたちは町に掛け合い→
栗を安定した価格で買い取ってもらう仕組みを つくった。
いっとき 半分近い面積にまで
落ち込んだ栗畑には→
再び 手入れの音が響くようになった。
そして 今の生き方が始まった。
助けてほしいという声を聞けば
足を運び→
惜しみなく その技を伝えた。
できるだけ小さな店を助けるようにし→
足代以外 もらわなかったこともある。
気いつけて行って下さい。すいません ありがとうございました。
気が付けば 「幻の職人」として
30軒以上の店を再建させていた。
だが 今も一日たりとも
あの日のことを忘れたことはない。
全国を駆け回ってきたが
佐竹さんと過ごした場所だけは→
23年たった今も 訪ねられずにいる。
♪♪~
小幡は 鹿児島にいた。
旅は終盤難しい店が控えていた。
(小幡)湯気院さんっていうのかな。
依頼先の菓子店はここ数年 売り上げを落とし→
一から再起を図ろうと 小幡を頼ってきた。
(取材者)右手の。あっ 湯気院さん…
これ 入ればいいね どこか。
これ そうですね。
どうも。
お待ちしておりました。此元です。
あっ はい。
挨拶もそこそこに 味を見る。
店ではコストを抑えようと
あんこ作りを外注し→
ここ数年 作っていなかった。
更に この日のために店が用意した小豆は 粒がバラバラ。
店を切り盛りする親子に
自分は何を伝えるべきか。
あっ はい。
あんこ炊きが始まった。
確かに あんこ炊きは難しい。
だが 大事なのは逃げないことだ。
突然 煮汁を くみ上げた。
ほら こんな すっきりする。あらあら ああ… すごい。
通常の炊き方であれば 灰汁まみれの煮汁。
厳しい言葉で たきつける。
よっしゃ。
小豆が炊き上がった。
はい。
だが 小幡は厳しい表情のまま炊き場を離れようとしない。
そして何も言わずに
もう一度 小豆を炊き始めた。
いやぁ…。
あんこ炊きの厳しさとその先にある奥深さ。
そのことを伝える。
♪♪~
果てのない あんこ道。
はい。
その道を行く 覚悟を示す。
あっ はい。
仕上げの火入れ。
いいわ いいわ。
2度目のあんこが炊き上がった。
いやぁ ハハハハ!
小幡は いつになく うれしそうだった。
岐阜への帰路につく日のことだった。
小幡が 思わぬことを言いだした。
ある場所に寄らせてほしいという。
あの 宮崎県の日之影町。
20年以上前 世話になった旅館に向かう。
おはようございます。
どうぞ。お世話になります。
早いが。 アハハハ。
おはようございます。いえいえ。
小幡は 小豆と砂糖を持参していた。