(笑い声)
この男 こう見えて→
全国から視察が殺到するカリスマ教師。
超進学校から児童養護施設まで→
いくつもの教室を飛び回る。
(生徒たち)イエース!
「生徒に魔法をかける」と賞される。
(拍手)
学力 才能 一切興味なし。
にもかかわらず エリートも落ちこぼれも
生き生きと輝き 伸びていく。
教えなくても 人は育つ。
育ての極意が ここにある。
鎌倉にある私立の男子校。
井本は ここの名物教師だ。
朝8時。
まず向かうのは 職員室ではなく生徒たちのところ。
わざと遠回りしては
何かと生徒たちに絡んでいく。
あだ名は「イモニイ」。
スキンシップ大好き 少年のような50歳。
回し方が 回し方が違うよ 回し方。
この日は ギリギリセーフだった。
井本の学校は 中高一貫の超進学校だ。
東大合格者数は常に全国トップ10。
卒業生には
世界的な学者や宇宙飛行士もいる。
井本は28年間 ここで数学を教えてきた。
(井本)おはようございます。(生徒たち)おはようございます。
この日は中学2年生の授業。
いきなり 不思議な図形を描き始めた。
井本は 教科書を全く使わない。
ノートをとらせることも 一切ない。
最低限の基礎を教えたあとは
オリジナルの問題を出し→
見守ることに徹する。
生徒たちが自分の頭で考え始めた。
その様子を 井本はじっと観察する。
相づちを打ち そっと背中を押す。
短い声かけで やる気に火をつけていく。
教師として 井本が目指すのは ただ一つ。
授業開始から10分。
更に 火に薪をくべる。
好き勝手に席を立ち 夢中になる生徒たち。
井本は授業の中で正解 不正解は示さない。
生徒の答えを尊重する。
(拍手)
ついには 生徒が自ら問題を作り始めた。
一般的なカリキュラムからは逸脱した授業。
だが 井本の教え子たちは
考える力の土台を身につけ→
世界で活躍する人材に育っている。
こうやって丸があって…こうやって丸を描いたら…。
(拍手)
そんな簡単じゃない。
(井本)さよなら。
(生徒たち)ありがとうございます。
たった1問で1時間。
答えも出ないまま 授業が終わった。
井本さんの授業は
アドリブのように見えるが→
実は地道な準備のたまものだ。
特に生徒の答案のチェックには驚くほど時間をかける。
休日にもかかわらず
この日も学校に来ていた。
時間がかかるのには 訳がある。
井本さんが年間300枚以上作るオリジナルのプリント。
そのほとんどが
生徒の間違いを材料にしている。
1時間の授業のために
時に10時間以上かけて→
答案を一つずつ読み込み
良い間違いを探す。
井本さんが配っているプリントには→
一見 正解に思える「ナイス誤答」が仕掛けられている。
(生徒1)おお~!
(生徒2)そっから そっから…。
(生徒たち)ああ~!
(井本)そしたら ほら これとこれが等しいよって…。
タイミングを見計らい…。
(井本)すごいでしょ? すごいんだけど→
あとから考えると
あっ これだめだってなった。
よく考えたら これ だめです。
(生徒)えっ?
(井本)よく考えてみ まさにそうです
穴があります。
ねらいどおり 生徒たちの
考えるスイッチがオンになった。
でも実は 井本さんが
最も大事にしているのは→
授業とは関係なく
生徒にちょっかいを出すこと。
そして 生徒ができている
ささいなことを探しては→
言葉にして認める。
(井本)はい さよなら。(生徒たち)さようなら。
(井本)不思議なのが 好き好き好きって
ペタペタ貼ってると→
もっと好きになるんですよ。