2020/01/21(火) 22:30〜23:20 プロフェッショナル 仕事の流儀「一匹一匹、一歩一歩〜獣医師・田向健一〜」[解][字]


前面に押し出した病院は→
見向きもされなかった。
診察は 1日2件あるかないか。
両親が用意してくれた開業資金は

瞬く間に底をついた。
有り余る時間を利用して
手術器具などの開発に没頭した。
知恵を凝らし 有り合わせの物を活用した。
いつ どんな動物が来ても対応できるように→
準備だけは怠らなかった。


ハリネズミ。
イグアナ。
リスザル。
時折やって来る僅かな動物と
必死で向き合った。
でも 心の奥にある不安は
どうやっても拭えなかった。
このままでは じり貧。
廃業は免れない。
両親に どう伝えればいいのか。
そんな時 心の支えになったのがプロレスラーの…
それまでにいた団体から独立し
孤独に。
でも ぶれずに闘っていた。
自分も やれるところまでやり抜こうと思った。
開業して3年。 事件が起きた。
瀕死のカエルが次々と病院に運ばれてきた。
そして なすすべもなく 死んでいく。
小学生の頃から 40年近くカエルを飼ってきた田向さんは→
あることに気がついた。
大学で検査してもらうとある菌が検出された。
カエルツボカビ。
世界中で さまざまなカエルを次々と絶滅させていた。
治療法も確立されていない感染症。
その日本上陸に いち早く気づいたのは田向さんだった。
でも その病気から救えてこそ 獣医師。
感染を恐れる人から殺処分を求める声が届く中→
屈することなく 治療法を探し続けた。
そして 3年がかりで→
ヒトの水虫薬の成分が効くことを突き止め

多くのカエルの命を救った。
動物に対する真摯な姿勢が評判になり→
気づけば 待合室は動物であふれるようになっていた。
独立を後押ししてくれた両親は→
この数年 相次いで 世を去った。
2人が飼っていた…
田向さんが預かり 19歳になった。
去年秋。
田向は 命をめぐる闘いに身を置くことになった。
サルの一種…
朝から嘔吐を繰り返しているという。
腹に異物を感じた田向は
詳細に調べることにした。
手で触っても 出る気配のない大きな塊。
かん腸をしても 出ない。
飼い主に 現状を説明した。
(田向)血中尿素窒素っていうのは大体20ぐらいまでのものが→
今ね 118までいってるんですよ。→
強い すごい 脱水症状を起こしている。要するに 多分 食べても吸収…→
飲んでも吸収できないような
状態ですね。→
これも脱水からきてるんですけども。
手をこまねいていれば 命が危ない。
飼い主の同意を得て 緊急手術を決めた。
手術を始めた 直後のことだった。
田向の顔が曇った。
思っていた以上の大きさ。
便ではない可能性も出てきた。
だが 腸を切れば そこから菌が入り→
最悪の状態を招く可能性がある。

腸は切らず 粘り強く指で押し出すことにした。
優しく 押し出していく。
麻酔から覚めると自分の力で 排便できるまでになった。
翌朝のことだった。
マーモセットの体調が急変。 その後…→
亡くなった。
(田向)術後はですねこれだけのうんちがね 結構…。
飼い主に ありのままを伝えた。
お疲れさまです。はい。
お先に失礼します。
手術をすべきだったか否か。
誰も分からない。
だが 田向はたとえ リスクがあろうとも→
その選択肢が最善と思うならば
躊躇してはならないと考える。
脳裏に 痛恨の記憶がある。
開業まもない頃に診たフレンチブルドッグ。
朝から 白い泡を吐き続けていた。
胃に何かが詰まっていると考えられた。
だが レントゲンに
それらしきものは映らない。
手術はせず 様子を見ることにした。
だが 翌日 容体が急変。
急いで 手術を始めたが
間に合わなかった。
ためらいが ひとつの命を奪った。
あの日 自らに課したことがある。
可能性があるかぎり
リスクを恐れすぎてはならない。
そして また今日も。