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2020/11/29(日) 05:15〜05:45 桂文珍の演芸図鑑 選「高橋尚子 山上兄弟 柳家さん喬」[字]


私 せがれんとこ行って聞きました。→
『お前 一体何を思い悩んでるんだ』。
話をしてくれない。→
とどのつまりが まあ

番頭さん お前さんになら→
話してもいいてえことになったんだ。→
すまないがね 2階行ってせがれが一体何を思い悩んでいるのか→
聞いてきちゃあくれないか」。
「アッハハ。 さようでございますか。→
へえへえ お安い御用で。


じゃ 行って参じます。→
ごめんください 若旦那。
開けますが よろしゅうございますか。→
へい ごめんくださいまし。→
何ですね 若旦那。締め切ってちゃいけませんよ。→
よくなるものもなりません。 開けますよ。
よろしゅうございますね。 へい へい。→
ほ~らご覧なさい。 オホホ
す~っと涼しい風が入ってきた。→
いえ 大旦那から聞きました。 何か
思い悩んでることがおありになるって。→
何ですね。 この ご大家の若旦那が→
思い悩むような不幸なことは何もございません。→
一体どうなすったんでございます?」。
「言ってもいいけど お前 笑うよ」。
「何をおっしゃいます。
ご病人のおっしゃること→
笑うバカありませんよ。 笑いません」。
「笑う」。「笑いません」。
「笑う」。
「フッフフフ」。「ほら 笑った」。
「何ですよ。
からかっちゃいけませんよ。→
どうなさいました?」。
「あれは… 去年の暮れのことだった。→
私は お父っつぁんの代わりに
紀州の出店へ行きましたよ」。
「ああ そうでございましたな ええ」。
「その紀州の店で 出会ったんだ」。
「ハハハハハ。

そんなこっちゃないかと思いました。→
何ですね そんなことは
思い悩むようなこっちゃござんせんよ。→
ええ。 男だったら一度や二度は
そんなこと 当たり前のことで。→
さようでございますか。
それで そのお相手は どのような…」。
「つやつやしてて みずみずしくて…」。
「香りのいい…」。
「ホオッホホホ そうですか。
それで お相手の名前は?」。
「蜜柑」。
「えっ?」。
「蜜柑が食べたい。 蜜柑」。
「それじゃ 何すか 若旦那あなた 蜜柑が食べたくて思い悩んで…。→
アッハハハハハ。 何ですね そんなこと
早くおっしゃって下さ…。→
私 今ね 蜜柑買ってきて
山を築いてご覧に入れますから。→
アッハハ 何だ
途端に顔色がよろしくなった。→
ああよかった よかった。→
旦那様 行ってまいりました」。「どうしたい。→
せがれは一体何を思い悩んでるんだ?」。
「言ってもいいけど 笑います」。
「何を言ってんだ。
え? 笑うバカないじゃないか。→
どうしたんだい?」。
「あれは去年の暮れのことでございました。若旦那 大旦那の代わりに→
紀州の出店へお出向きになりました」。

「ああ そうだったね。 うん。向こうのことも覚えてもらおうと思って」。
「その紀州の出店で→
出会ったんです」。
「ハ~ハハハハ。
子どもだ子どもだと思ってたが→
そうかい うんうんうん。→
それで その相手は どんな相手だい?」。
「つやつやしてて みずみずしくて…」。
「ハハハ…」。
「香りのいい…」。
「そんな深い仲になってたのか。気が付かなかった うんうん。→
それで その相手の名前は?」。
「蜜柑」。「え?」。
「蜜柑」。
「お前 からかってる…」。
「いえ そういうわけじゃないんですよ。
私も大旦那と同じようにね→
…ねえ そういうことかなと思ったんです。
そしたら そうじゃないんです。→
その紀州の出店で食べた蜜柑の味が
忘れられない。→
蜜柑が食べたい。 蜜柑が食べたい。
それで思い悩んで」。
「あそう」。
「ええ。 ですから 私 言ったんです。→
そんなこと 何ですね 言って下されば→
私は すぐ蜜柑の山を築いてご覧に入れますったら→
途端に顔色がよろしくなりました。
ええ よろしゅうございましたな」。
「お前 蜜柑買ってくるって言ったのか?」。


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