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2020/11/29(日) 05:15〜05:45 桂文珍の演芸図鑑 選「高橋尚子 山上兄弟 柳家さん喬」[字]


「ええ」。
「お前 明日 何の日だか知ってるかい?」。
「明日は土用の丑でございますよ。店の者は 1年に1度うなぎを食べ…」。
「あっ!」。
「『あっ』じゃないよ ええ?→
食べたくても食べられないから

思い悩んでたんだ。→
お前 それ 何か?
蜜柑買ってくるって そう言ったのか。→
バカ。 あの子はがっかりするよ。
あんだけ体弱ってんだ。→
下手したら し… し… 死ぬよ。→
もしな そんなことになったらな私は 逆縁ながら お前を→
お主殺しとして お上に訴える!」。
「そんなバ…」。「そんな目に遭いたくなかったら→
蜜柑買ってこい!」。
「はい!」。
「そそっかしいなあ。→
この夏に蜜柑なんざないよな。→
すいません 蜜柑ありますか?」。
「ハッハハハ。 あんまり暑いんで→
おかしくなっちゃったんじゃないですか?
いや~ そら→
この夏場に蜜柑てのは ねえっすよ」。
「蜜柑ありますか?」。「蜜柑? あるわけねえじゃねえか」。
「蜜柑 バカなこと言いなさんな」。
「蜜柑 あったらこっちが欲しいやな」。
「蜜柑 ねえや」。
「蜜柑 蜜柑 蜜柑 蜜柑…。→
みか~ん!」。


「もし あなた。 どうしたんです?え? 暑さにあたっちまったのかい?→
よかったら 奥でお休みなさい。
え? どうしたの? え?」。
「あ… 蜜柑ありますか?」。
「蜜柑?いや うちは 蜜柑はないね→
荒物屋だから。
やかんならありますが」。
「やかんじゃない 蜜柑」。
「蜜柑 どう… うん。アッハハハハハ。→
そんなこと言っちゃったの。
そそっかしいねえ。→
そらね 江戸中探したって
そんなものはないよ。→
あっ そうだ。 あの 須田町の
万惣って蜜柑問屋があったね。→
あそこ行った方が
話が早いんじゃないのかい?」。
「え? あっ。 ありがとうございます。→
ごめんくださいまし。ごめんくださいまし。→
こちら
蜜柑問屋の万惣さんでございますな」。
「はい。 手前ども
蜜柑問屋の万惣でございます」。
「蜜柑 ありますか?」。
「蜜柑でございますか。→
おい! 蜜柑のお客様だよ」。
若い者が た~っと蔵の前に。
「開けておくれ」。
ガタッガタッガタッ。
涼しい風が す~っと

番頭の胸をなぜ上げて…。
「蜜柑ありますね」。
「あればよろしゅうございますが。→
下ろしておくれ」。
蜜柑の箱が ばん ばん どん。
どれを開けても みんな
プ~ンと すえた臭い。
「お客様
これが一番おしまいの箱でございます。→
開けとくれ」。
バリッ バリッ バリッ。
上の方は腐っておりますが
手を突っ込みますと…。
「1つ ございました」。
「ありがとうございます。命が助かりました。→
頂いて上がります。
いかほどでございましょう」。
「千両 頂戴をいたします」。
「せ… 千両!?それは高いや」。
「確かに 蜜柑1つ 千両
お高うございますが→
手前どもは
蜜柑問屋の万惣でございます。→
いつ何どき どのようなお客様が
おいでになりまして→
『蜜柑は夏のことですからありません』では
蜜柑問屋ののれんに傷がつきます。→
こうして毎年 1蔵 2蔵 3蔵 4蔵と
無駄をいたしております。→
蜜柑1つ千両 お高いよ…」。

「理屈は分かります 理屈は分かりますが→
決してほかの方に
お売りにならないように。→
旦那様 行ってきました」。
「はっ どうした?」。
「ありました」。
「そうかい。 買ってきておくれ」。
「いや… 1つ千両ですよ?」。
「安いねえ」。「え? ああ そうですか」。
「おい

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