2020/12/06(日) 05:15〜05:45 桂文珍の演芸図鑑 選「高橋尚子 桂宮治 春風亭一之輔」[字]
何がって そうだろ。長屋の壁なんて こんな薄いんだよ。→
お前んちが火事になったらな
両隣で火事になんだろ。→
火の粉 舞ってみろ。 風吹いたら
向こう3軒だって火事になって→
大風 びゅ~っと吹いちゃったら
1人の火の不始末で→
町内じゅう火事んなって 大火事なんて…
そういうこと起こるんだよ お前な。→
あんなとこで
火なんか たくもんじゃねえし→
そもそも ああいうところに
何か バケツに水くんで置いとくとかよ。→
火の用心だよ。 ちゃんとしなきゃダメだ
お前。 ちゃんと 火の…。→
俺は
そんな話をしに来たんじゃねんだよ。→
出せよ」。
「え?」。
「出せよ おい。→
あ 負け。 な… 何だこれ。何でじゃんけんすんだ バカ野郎。→
金出せって そう言ってんだい」。
「何で 俺がお前に金出さなきゃいけないの?」。
「おい 俺を誰だと思ってんだよ」。
「消防署の人?」。「違うよ。→
それは無理もないけど…。→
いや 俺は 泥棒だ 俺は。 ぬすっとだぞ。→
押し込みだ 強盗だ。
分かってんのか この野郎!」。
「あのね 長屋の壁が薄いっつったの
お前じゃねえか。→
そんなでけえ声で
『泥棒だ!』とか言うと→
みんな飛んでくるよ 町内のやつが。
もう 強いの住んでんだよ。→
もう ほんとに
車力だとかさ 相撲取り崩れとか→
そんなんいっぱいいんだよ。
お前なんか キュッて ひねられて→
交番突き出されるよ。
気を付けた方がいいよ。→
お静かに願いますよ」。
「俺が何も知らないと思ってうそをつくな」。
「うそだと思うんだったら お望みどおり
『泥棒だ~』って どなってごらん。→
すぐ来るから みんな。
はい どうぞ。 はい。→
はい はい はい はい はい はい はい…」。
(小声で)「金を出せよ」。
「だらしねえな。 ないもん 金なんか」。
「ないわけない。 どっか隠してる…」。「ないないない。→
探してごらん いろんなとこ。 ないから」。
「何だ この野郎。→
おとなしく言ってるうちに
出した方がいいと思うぞ。→
今 出してえって心持ちにしてやっから。→
おう どうでえ」。「あ 抜いたね。→
とがってんね。 ピカピカ光って きれい」。
「これが 目に入らねえのか」。
「そんなもん目に入ったら痛いよ。
痛いよ 目に入ったら 痛い」。
「見えねえのかって…」。
「見えてるよ。→
抜いたね とがったね
ピカピカ光ってきれいだねって→
今 感想述べたばかりじゃねえかよ。
見えてるがゆえに感想が言えるのだ」。
「何だ この野郎。
お前 おとなしく聞いてたら…→
これでもって てめえの土手っ腹
風穴開けて ぶっ殺すぞ この野郎」。
「え? 何か言った? 今」。
「殺すぞ この野郎 おう」。
「こ… 殺す?
お前が 俺を? ほんとに?」。
「ほんとに殺すよ。 今まで
何人やったか分かんねえんだから。 あ!」。
「いいとこ来てくれた~。→
いや ちょうど死にてえなって心持ちだったんだよ。→
じゃ ちょっと お手数おかけしますけど
悪いけど 一思いで→
それでやってくんねえかな。
殺せ ねっ 殺せ~。→
殺せ!」。
「シッ。 ちょっと…でけえ声出すな この野郎。→
命は粗末にするもんじゃねえよ この野郎。
何だ 殺せ…」。
「具合でも悪いのか? お前 病気か?
死にたいって 何?」。
「うん…」。
「うんじゃねえよ。→
何だ 死にてえって どういうことよ」。
「話 聞いてくれる?聞いてくれんなら するけど」。
「まあ 聞かねえことはねえけど。
何だい」。
「実はさ 俺さ 商売は大工なんだけど
博打が好きなんだよ。→
病みつきってやつでね。→
この間も 道具箱を質に入れてやったんだよ うん。→
そん時は 付いて もうかったんだけど