2020/12/06(日) 05:15〜05:45 桂文珍の演芸図鑑 選「高橋尚子 桂宮治 春風亭一之輔」[字]


金って あっという間になくなんね。→
うん。 すぐ一文無しになっちゃってさ。→
道具箱 質に入ってるから商売 行けないだろ?→
友達にね う~ん
元 借りに行こうと思っても→
『お前 のべつ そんなことばっか
してんじゃねえか バカじゃねえか』→
とか言われてさ

みんな 俺から離れてくんだよね。→
で 1人になって よ~く考えたら
みんなの言うとおりで→
『俺は何のために生きてんのかなあ
だらしねえ野郎だ 俺は。→
もう生きててもしょうがねえや。
もう死にたいな』と思ったら→
ちょうど お前が 今来たんだよ。→
いい間をしてるね。→
悪いけど ちょっと お手数かけますけど→
やっぱり それで 一思いにやってくんねえかな。 殺せ 殺せ…→
殺せ!」。


「何で博打なんかやんだよ お前。真面目に働かなきゃダメじゃねえか」。
(笑い)
「チッ。 道具箱てのはいくらで質に入れたんだよ」。
「5円」。
「5円?」。
「う~ん…。→
チッ。 ふん」。
「な 何これ」。
「これで 道具箱 質から出してきて真面目に働け」。
「悪いよ。
初めて会った泥棒に そんな…。→
返すよ」。
「それで…」。
「違うんだよ。
質に入れたの みつき前なんだよ。→
利息もあるんだよ」。
「利息も 俺が出すべきかな…」。
「そういうわけにいかねえからさ
一思いにやって… 殺…!」。
「やめろ それ。
利息は いくらだい」。
「2円」。
「金は計画的に使え」。
「悪いね。 何か ちょっと こっち来て
俺の体 触んね?」。
「何だ…」。
「いいから ちょっと 俺の体…」。
「何だ 男の体なんか 触っ…。→
裸じゃねえか。 素っ裸」。
「はんてん 腹掛け ももひき

み~んな質に入ってんだよ。→
裸じゃ 表 出らんないだろ?」。
「何だ その甘えるような目つきはよ。そこまで面倒見きれないよ 俺は」。
「そうだよね。 悪いもんな
そこまでしてもらったら。 殺…!」。
「いくらだい?」。
「利息込みで2円」。
「何で このうち入っちゃったんだろうな
俺は」。
「3日3晩 何も食べてない」。
「てえ! 50銭やるから 米買って食え」。
「俺 おかずっ食いなんだよ」。
「知らないよ。 何で 俺が お前のおかずの面倒まで見なきゃいけねえんだよ」。
「そうだよね。
おかずの面倒まで見てもらったら悪い。→
でもさ 俺は小せえ頃から
塩っ辛いおかずがないってえと→
おまんまが 喉通らねえんだよ。 誰も
俺の気持ち 分かってくんねえんだよ。→
おかずが!」。
「分かったよ!→
みんなやる みんな。 持ってけ!」。
「ほんとにみんな?今 財布の底 つまんでなかった?」。
「…見てたの。
失礼しました。 はい みんなです」。
「やっぱり返す」。
「これで…」。
「でもさ
職人の手間賃なんて すぐくんないの。→
これで働き行ってもね

手間賃くれんの ひとつき先とか。→
だから これ もらっても
また明日から一文無し。→
「焼け石に水」みてえなもんだから
これ返すから 一思いにやって な?→
殺せ… 殺せ~。 殺せ~!」。
(口笛)
「悟られちゃあしょうがねえよ」。
「ここに一円札 縫い付けといたんだいざって時のために。→
お前の『いざ』じゃねえ
俺の『いざ』だからな。→
ねっきりはっきりこれっきりだ
持ってけ」。
「悪いね。 何か 催促したみ…」。
「催促してんじゃねえか この野郎。→
もう俺 一文もねえから…→
帰るよ」。
「悪かったな わざわざ来てもら…」。
「わざわざ来てねえよ。 たまたま…たまたま巡り会っただけだ。→
じゃあな 静かにしてろ」。