一生懸命 字ぃ覚えたんだす。
あの時のことは忘れられへん。
百合子さん 覚えてはりますか?
私には 神聖な義務が ほかにもあります。
どんな義務というのだ。
私自身に対する義務ですよ。
(拍手)それや! それだす!
やっぱり ちゃうなあ ほんまもんは。
ああ もう奇跡なんか信じない!
私は信じるよ。
千代ちゃんは とにかく百合子さんを励ましたいと思たんやなあ。
そんなにお芝居が好きなら
自分でやってみたら?
一生一回
自分が本当にやりたいこと やるべきよ。
そのころ 近くの神社に
お参りに来ていたシズさんは→
偶然 役者の早川延四郎に
出会ってしもて…。
分かるもんやな。
あれから 20年たってるいうのに。→
何べんも手紙書いたんやけどな…。
(シズ)相すまんことだすけどみんな読まずに捨てております。
千秋楽の明くる日の朝 ここで待ってる。
この2人 どないな関係やろ?
…って 福富のお茶子やん!
あかん この展開は…。
(節子)不義密通!?
道頓堀中で噂になってます。
役者の早川延四郎さんと
そないな間柄やて。
岡安のご寮人さんがなあ。
(2人)なあ。
やっぱり言い触らしよった~!
実際のとこ 過去に何やらあったようで…。
駆け落ち!?
(かめ)もちろん旦さんと出会う ず~っと前の話やで。→
延四郎さんは
お茶子修業してはったご寮人さんを→
大層 ひいきにしてくれてはってな。→
ご寮人さんは東京へ出ていく延四郎さんについていことしはったんや。→
すんでのとこで お家さんが
ご寮人さんを ひっつかまえはってな。→
芝居茶屋は役者さんと芝居小屋のおかげで
商いさせてもろてる。
そんな わてらが
役者さんと色恋沙汰起こしたりしたら→
信用を失いかねん。
(富士子)岡安から足が遠のくお客さんが出てくるかも分かれへんな。
何してはんのだす こないなとこで。
(みつえ)お帰りなさい。(シズ)どないしましたんや。
まだ仕事は終わってまへんで。
(宗助)わしも え~っと…。
(シズ)あんたらには はっきり
さしといた方が よろしわな。
わてと あのお人は 確かに
恋仲になりかけたことがおました。→
岡安の看板に
泥塗るようなことになってしもて→
ほんまに申し訳ない。
(シズ)小次郎さんちょっと火ぃ借りますわな。
シズさんは
二度と延四郎さんには会わへんと→
心に決めてはったんや。
(シズ)あんたと おんなじくらいの年の頃や。→
何やっても うまいことでけへん。
お茶子なんか辞めたるて思た時にな→
言うてくれましたんや。→
そないな子が頑張って一人前になっていくのを見ると→
自分も励まされるって。
ありがたかった。 助けられた。
わてにとって あのお人は 恩人なんだす。
(みつえ)あんたんとこのお茶子がけったいな噂 流してくれたせいで→
うっとこ えらいことなってますねんで。
(福助)芝居茶屋は もう のうなるで。(みつえ)どういうこと?
(福助)お客さんは 茶屋を通さずに
芝居だけ見て さっと帰りはる。→
芝居茶屋いう商いは
時代に合うてへんのや。
(シズ)
明日の鶴亀座 組見のお弁だすけど→
間違いのう注文してくれてますやろな。
(富士子)へえ。
組見というのは 役者の後援会などが
団体で芝居を見ることです。
明日の組見は うちらに任して→
ご寮人さんは延四郎さんに会いに行っとくれやす。
あんた
いきなり何言いだすねんな。
もし行けへんかったら→
ご寮人さんは この先ずっと後悔しはんのと違いますか?
うちに言うてくれはりましたよね。
「自分が どないしたいのかちゃんと考え」て。
「そないせな 後悔する」て。
あれはご寮人さんご自身のことやったのと違いますか?
(机をたたく音)
(シズ)千代…→
ええかげんにしなはれ!
ご寮人さんに言われて うちは生まれて初めて ちゃんと考えました。
岡安に ずっといてたいとか