今夜もまた 指名が入った。
お邪魔します。→
うわぁ いらっしゃいませ。ようこそ。(拍手)
この日は 20年以上つきあいがある
企業の会長から→
部下たちとの親睦会に呼ばれた。
仕事の接待や 祝い事など→
その目的ごとに 花を添えるのが
芸者の仕事。
自分がどう振る舞うべきか判断していく。
芸者としての心得を こう語る。
この日 育子は 主役の会長を
引き立てながら 場を盛り上げた。
ハハハッ! 半分?
それ 優秀って言わない。
若手の芸者衆が舌を巻く踊りは
育子の真骨頂だ。
♪♪~
赤坂から程近い場所に稽古場を兼ねた自宅がある。
素顔は
とってもチャーミングな女性だった。
昔のお姐さんがいたら
いろんなことをやったら→
「あなた あれでいいと思いますか」ってね
何回か そういうのがあるの。
今日は ごめんなさい
見ないで下さい。
育子の自宅は 「置屋」と呼ばれる
芸者衆の事務所になっている。
いずれも
赤坂では名の知れた芸者たちだ。
そんな時代だからこそ 育子は
あえて昔ながらのやり方にこだわる。
腰 落として。
3年前 芸者として初めて→
グッと… こう返して。
育子は言う。
この日の育子のもてなしは
宴席の前から 既に始まっていた。
テーブルに置かれた季節を彩る花々。
実は…。
四季の移ろいを肌で感じるよう
努めている。
毎日の新聞やテレビのチェックを
欠かさず→
もっと大きい声で…。
日々の1分1秒をどう積み重ねて生きるか。
それが本物の芸者をつくり上げると
育子は信じている。
これが 芸者 育子の日常だ。
今 飲んでますけどね ちょっとだけ。そうそう そうそう。
パチンコ屋さんに入った時っていうのは…
好きな男性のタイプ…。
そういうのが
やっぱり すてきだなと思う。
少しでも花柳界を盛り上げたいと→
♪♪~
育子が1人で7分間 踊り続ける
「雪の山中」。
♪♪~
30分にわたって 踊り続けた育子たち。
(拍手)
休憩もせず すぐに次のお座敷へ。
はぁ はぁ…。
(拍手)
(育子)ありがとうございます。
ありがとうございます。
(育子)ああ うれしい。
ありがとうございま~す。
育子は言う。
芸者は お座敷に呼ばれて なんぼ。
時代にそっぽを向かれたら
それで おしまい。
ありがとうございました。
宴席は 予定を1時間オーバーして大盛況のうちに幕を閉じた。
アハハハッ…。
ハハハッ!ンフフッ…。
(育子)こんにちは。
誰にでも 忘れられない思い出の味がある。
(育子)いきま~す。 いただきます。
おいしい ハハッ。
おいしい~。
なんか思い出しちゃった…。
つらい思い出の 味だった。
泣けちゃった。
でも… 今のこの感じた おいしさは→
昔は感じなかったと思うよ。悔しさが入ってるから。
昭和15年
9人きょうだいの末っ子として→
熊本で生まれた育子さん。
かわいいものが大好きで将来の夢は 花屋さんになることだった。
日中は 三味線や踊りの稽古
夜は お座敷の手伝いと→
目も回るような忙しさ。
熊本では名の知れた存在となった。
雑誌で 東京・赤坂に
日本有数の花柳界があることを知った。
「自分の力を試したい」
先輩芸者のつてで 赤坂で働き始めた。
時は 高度経済成長の真っただ中。