私たちは 指示に従って 家の前を素通りするつもりだった。
しかし 思いがけないことに
家のわきに 男が座っていた。
家の中からは 物音が聞こえた。
見ると 左足が細くわずかに曲がっている。
アウラのようだった。
私たちは とりあえず二人の家から50メートルほど離れた所にある→
フナイの駐在所に入った。
駐在所は先住民の集落の近くに建てられ→
数人のスタッフが
住み込みで働いている。
フナイのスタッフによると
ここは アウレとアウラにとって→
脅かす者のいない
安住の地になっているという。
駐在所に着いて すぐ 1人の男が
こちらに向かってきた。
アウレのようだった。
アウレは見慣れない人間が来ると→
よく 駐在所に 様子を うかがいに
来るということだった。
アウレは 私たちを見て
一瞬 笑ったような気がしたが→
すぐに
感情の読みにくい表情に戻った。
≪アウレ アウレ!
異変が起きたのはその翌日だった。
アウレ!
駐在所では 1日1回→
栄養不足を補うため
米や豆などの食事を提供している。
普通なら名前を呼ぶと 皿を持って
アウレが やって来るという。
アウレ!
しかし この日 アウレはいつまでたっても 来なかった。
翌日 二人の家からは しきりに
何かを研ぐ音が 聞こえてきた。
彼らは 何かを
恐れているようだった。
何か。
それが私たちのもたらしたものであることは→
明らかだった。
3日目。 二人は森に消えた。
この日も
食事を受け取りに来なかった。
私は 大きな間違いを
犯していたことに気がついた。
彼らを どこかで→
文明社会との接触を受け入れたコルボと 同一視していた。
しかし 森から現れて
10年以上も たつというのに→
二人は 本質的に
イゾラドのままだったのだ。
彼らは 一切
ほかの言語を覚えようとせず→
自分たちの言葉で
話し続けてきたという。
夕方 二人が森から帰ってきた。
駐在所の人たちは不安を覚えていた。
二人が
私たちに対する恐怖感から→
この保護区を
拒否するのではないか…。
そこで フナイのスタッフは→
私たちを 正式に引き合わせた方がいいと 考えたようだった。
アウラ!
アウレ!
フナイのスタッフは 声をかけ
懸命に説明しようとした。
アウレが出てきた。
その手は 厚みがあり手のひらは 硬かった。
しかし 不思議と 硬すぎるとは
思わなかった。 ただ 冷たかった。
しばらくして
アウラも 姿を見せた。
フナイのスタッフが
私たちに 呼びかけてきた。
「一緒に家の中で話そう。 アウラも
了解してくれているようだ」。
私は 家の中に入る時
一瞬 ためらった。
入っていいのだろうか?
しかし 私には アウレとアウラが生活している空間を→
見てみたいという思いもあった。
フナイのスタッフには二人の言葉は 分からない。
ただ 分かったフリを
しているだけのはずだった。
しかし アウラは しゃべり続けた。
(アウラの話す声)
二人にしか分からない言葉を
しゃべり続ける彼に→
私は 強固な意志を感じた。
ようやく 暗さに慣れてきた私の目に→
天井に納められている
膨大な数の矢が見えてきた。
彼らは ここでも
矢を作り続けていたのだ。
私は 彼らの矢が これほど
整った物だとは思っていなかった。
これほど 美しい物とは