珍しい服 着てやがんな。アメ公のお古か。
こちらで お寿司を食べられると聞いて。
ああ わざわざ来て下すったのにすまないけどね→
今夜は 内々だけの貸し切りなのよ。
小さい頃から かわいがっていた男の子が兵隊にとられてね。
終戦から3年たって
ようやく復員してきたの。
今夜 顔を見せに来てくれるのよ。
じゃあ お寿司の写真だけ撮らせてもらえませんか。
はい。
その かまぼこ板が写真機だって?
ちょっと見せてみろよ。
おっ! えっ?
ドラマに登場した中野里ことは→
築地で寿司店を営んでいた実在の人物です。
戦時中に夫を失い
空襲で店を焼かれながらも→
のれんを守り通した
伝説の女性寿司職人です。
その気概を意気に感じた
築地の仲卸と信頼関係を築き→
寿司を握りました。
晩年まで市場に足を運び続けた こと。
彼女も また 築地魂の持ち主でした。
こんばんは。
遅ればせながら
無事 日本に帰ってまいりました。
(泣き声)
よくぞ ご無事で。
ことさんの寿司だけを楽しみに
どうやら生き長らえたよ。
その寿司なんだけどね→
魚が手に入らなくてね。
そうか。
ごめんね。
いや。
あっ かぶの寿司なら…。構わないよ。
ことさんの握ってくれる寿司が
食べたいんだ。
よし!
はっ!
どうしたい! どいつもこいつも
辛気くせえ面しやがって。
あがったばっかの真鯛だ。
ありがとう。 ありがとう。
いや…。 昔なじみの漁師がよ
東京湾の沖に 船一艘こぎ出して→
命懸けで 取ってきた。
よ~く味わって食えよ 若いの。
はい。
じゃあ 置いてくよ。
ありがとうね。
魚取るのって命懸けなんですか?
水中には まだ潜水艦よけの網が
張り巡らされてるし→
機雷だって そこら中に浮いてる。
東京湾じゃ まだ戦争は終わってねえのさ。
当時の東京湾の映像です。
東京湾には 戦時中米軍が投下した機雷が浮かび→
潜水艦の侵入を阻む防潜網も
張り巡らされ→
漁場は限られていました。
占領軍の演習の砲弾も飛び交っていました。
漁師たちは 燃料もなく 手こぎの船で
危険な海に出ていました。
どうぞ 召し上がれ。
うまい。
戦友にも食わせてやりたかった。
あんたも召し上がれ。
えっ… いいんですか?
ええ。
うまい。
何だ これ。
うまい。
ハハッ… そうか ハハハ…。
確かにうまいよ じいちゃん。
ところで あんた誰だい?
あ~ 俺…。
(ぶつかる音)
この野郎 何しやがんだ!
大事な握りが台なしじゃねえか おい!すみません…。
よしなよ。
止めんな!落ち着け。
(服が破れる音)
いさかいは やめませんか。
戦争は もう 終わったんでしょ。
すまなかったな。
じいちゃん?
じいちゃんなのか?
じいちゃん?
菊池源藏って名だろう?
いかにも 俺は菊池源藏だ。
じいちゃん…。
よかったな
こんなうまい寿司に ありつけて。
知り合いかい?
さあ。
信じられないだろうけどさ
俺は あんたの孫だ。
孫?