1歳半になった兄弟は→
見違えるほど
たくましくなっていた。
再び 狩りの季節がやって来た。
独りで生きていくためには 自分で獲物を取らなければならない。
シロが 魚を追いかける。
失敗した。
今度は クロが追い始める。
捕まえた。
シロの方は
なかなか うまくいかない。
どうやら 狩りが苦手なようだ。
クロは 2匹目を捕らえていた。
シロは 狩りを諦めて
母 イチコに魚をもらっていた。
次の年の春には
ひとり立ちするはずのシロ。
どうにも心もとない。
子グマにとって 母との別れは最初の試練だ。
ほかの親子に
その瞬間が迫っていた。
(鳴き声)
母グマが 子グマをたたきつけた。
突然の 母の変わりように
立ち尽くす子グマ。
母グマは発情の時期が訪れると
子どもを追い払う。
避ける事のできない
旅立ちの日だ。
(シカの鳴き声)
ルシャに緊張が走った。
森から現れたのは オスグマだ。
警戒心が強く めったに姿を見せる事はない。
オスグマは 子グマを殺す事もある
危険な存在だ。
このオスには 耳に目印があった。
研究のために つけられた標識。
オレンジと呼ばれていた。
このオレンジ 16年前にもその姿が記録されていた。
(オレンジの うなり声)
全盛期のオレンジだ。まだ標識はない。
最近の遺伝子調査により→
オレンジは ルシャで 最も多くの子孫を持つオスだと分かった。
いわば 王者のような存在だ。
オスは 森の中で激しい生存競争を繰り広げている。
食べ物や繁殖相手のメスが多い→
条件のよい場所を手にできるのは力の強いオスだ。
力の弱い 若いオスなどは→
条件の悪い方へと追いやられるしかない。
オス同士の戦いや 食料不足で
命を落としていく 弱いオス。
5歳まで生き延びる事ができる
オスグマは→
半数に満たないと考えられている。
厳しい戦いを勝ち抜いてきたオレンジ。
今や 野生の寿命ともいわれる
30歳を越える 年老いたヒグマだ。
それでもなお 厳しいオスの世界で
生きていくしかない。
♪♪~
親子が戻ってきた。
シロとクロは
もうすぐ オレンジと同じ→
オスの世界に身を置く事になる。
2頭とも 母 イチコから離れ独りで生きていけるだろうか。
♪♪~
翌 2012年。
私たちは 再び ルシャに戻った。
日ざしが照りつける 7月。
イチコを見つけた。
隣にいたのは シロだ。
母のもとを離れていなかったのだ。
しかも ひどく痩せこけている。
原因は分からない。
前の年 十分な獲物が取れなかったのだろうか。
兄弟のクロは どうやら
ひとり立ちしたようだ。
母 イチコは なぜか
シロだけを手放さずにいたのだ。
夏は ヒグマにとって
一年で最も過酷な季節だ。
春の若葉は 既に硬くなり
川を上る魚も まだいない。
シロの体では
この時期を乗り切れそうにない。
イチコが しきりに
何かの臭いを嗅いでいる。
突然…。
イチコが 沖へと泳ぎだした。
イチコの帰りを待つ シロ。
戻ってきた イチコが何かを引き上げた。
イルカの死骸だ。
シロが イルカに かぶりつく。
飢えを癒やす 久々のごちそうだ。
だが その臭いに誘われて次々と親子が集まってきた。
夏は どのヒグマも飢えている。
シロとイチコはほかの母グマたちに囲まれた。
奪い合いが始まる。
(うなり声)
我が子でなければ