7月 一人の医師が あるニュースを食い入るように見ていました。
「自宅に出向いて 薬物を投与し…」。
ALSを患い延命の中止を望んでいた 50代の女性が…
2人の医師が薬物を投与し
殺害したと見られる事件です。
主治医が知らないところで起きた
今回の事件。
医療の現場には 動揺が広がりました。
命を終えたいと訴える患者に医師たちは どう向き合っているのか。
私たちは 取材を始めました。
終末期医療の現場では患者の望みをかなえようとすると→
一線を越えてしまうのではという
ジレンマが生じていました。
ALSなどの神経難病に携わる医師は→
延命を望まない患者にかける言葉を探し続けていました。
命を巡って葛藤する 現場の記録です。
社会に衝撃を与えたALS患者の嘱託殺人事件。
亡くなった京都の女性から→
メッセージを受け取っていた医師がいます。
新城拓也さんです。
神戸で 看護師や介護スタッフと共に→
終末期のがん患者の緩和ケアや
看取りを行っています。
一人一人の患者に寄り添う医療がしたいと
8年前に開業しました。
京都の女性からのメッセージは→
終末期医療に関する情報を発信する新城さんのSNSに→
寄せられていました。
「私達、 神経難病の患者も→
壊れていく体と心、
来たるべき死の苦しみの恐怖と→
日々戦っています」。
ALSを患っていた 林 優里さん。
病気のつらさや
周囲に理解してもらえない孤独を→
訴えていました。
その後 死を望んだ林さんは…
新城さんは 返信はしなかったものの→
その苦しみや 死への恐怖を痛いほど感じたといいます。
林さんは 新城さんが行っている
ある医療行為について 尋ねていました。
鎮静です。
おはよう。
かなり痛い?
鎮静薬を投与し 眠らせることで苦痛を取り除く 鎮静。
がん末期の70代の この男性は→
モルヒネなど あらゆる手段をとっても苦痛が続いたため→
この日 鎮静が行われました。
林さんは この鎮静に関心を示し→
新城さんにメッセージを
送っていたのです。
実は 私たちは 京都の事件の前から
新城さんの取材を行っていました。
鎮静によって
命の終わりを自ら決めたいという→
患者が増えていると聞いたからです。
長谷川太一さんも その一人です。
5年前に 直腸がんが見つかり
その後 肺や骨にも転移しました。
長谷川さんが 新城さんに
繰り返し訴えてきたことがあります。
苦痛が激しくなる前に
早めに鎮静を行ってほしいというのです。
メディア関係の会社で働いていた
長谷川さん。
40代後半になって
初めて子どもに恵まれました。
まだ小学1年生。
その娘のためにも 鎮静を受けたいと長谷川さんは言います。
彼から聞いたのは…
日本緩和医療学会は鎮静を行う際の要件を設けています。
その中の 耐え難い苦痛がある
という要件に→
長谷川さんは
当てはまらない可能性がありました。
どこまで 長谷川さんの希望に
寄り添えるのか…。
長谷川さんは この日
久しぶりに 家族と外出しました。
見してあげて 見してあげて。
家族の穏やかな時間を娘の記憶に残したい。
鎮静を希望することは
夫婦で話し合って決めたといいます。
公園へ行った 4日後。
おはようございます。
長谷川さんは 体の痛みを訴え
呼吸困難も出始めていました。
そして もう鎮静をしてほしいと
新城さんに伝えました。
新城さんは
鎮静の準備をして 訪問しました。
しかし 実際に行うべきかどうか
まだ決められずにいました。
長谷川さんの意識は 薄れかけていました。
よかったね お父さん。
苦しむ様子がないのを見て
新城さんは語りかけました。
鎮静なしでも
望みどおりに最期を迎えられる。
ぎりぎりの判断でした。