ふすまを開けるというと 江戸火鉢。→
私が座る差し向かいに女子が座る。→
『まあ 松ちゃん久しぶりやったやないかいな。→
どないしてやってん?』。
『何でも構へんがな。→
お前 ちょっとな
茶わん蒸しを 100ほど言うてこい。→
それからな 酒を50本ほど燗してこい』。→
『まあ またそんなむちゃなことばっかし言うて。→
そんな あんた 茶わん蒸しの100も
食べられへんやないか』。→
『食べられなんだら お前 近所の者に
配ったったらええがな』。→
『まあ そんなもん… あっ 分かった。
あんた また酔うてんねやろ。→
酔うたら じきに そんなむちゃなこと
言うねんさかいに。→
もうな 今日はな 夜遅いさかいに
何にも食べんと ねんねしなはれ。 なっ。→
今日は 夜遅いさかいに
何にも食べんと ねんねしなはれ』。→
『何? 何にも食べんと ねんねせえ?→
はは~ん!わしに食わすのが惜しいねんな。→
俺の口をひじめるな!』」。
「す… すんまへん。 ちょちょ… ちょっとここ かわってもらえまへんやろか。→
何や この人 『ひじめるな!』言うて
えらい 目むいて 怒ってはりまんねん」。
「ひじめるなっちゅうと 相手は女子
先立つものは ただ涙。→
『あう あう あ~!』」。
「すんまへん。 この人 怒ったり泣いたり一人でしてはりまんねんけど」。
「『はは~ん 金がないので ほえんねんな。
銭がないので わめき倒すねんな。→
よし これで買うてこい』っちゅうて
ここで初めて→
この懐銭を
前へ ポ~ンとほったりますわ。→
女子 ツカツカッと行って
触ってみるっちゅうと 金でっしゃろ。→
『まあ 松ちゃん
これ お金やないかいな。→
こんなぎょうさんのお金
どないしてやってん?→
分かった。 こないだ 住友はんへ
盗人が入った。 あんた 盗人の片割れ』。→
『何をぬかしてけつかんねん。
盗人の片割れ?→
高津の富が当たったんじゃ!』。→
『まあ 富が? うれしいやないか。どないしてやつもり?』。→
『親方 呼んどいで。 証文 持っといで』。→
一文も値切らんと身請けしたりまんねん。→
さあ そうなったら わたいも
今までみたいなわけにはいきまへんで。→
朝風呂丹前ちゅうやつだ。
朝 目 覚めまっしゃろ。→
楊枝くわえて 手拭いかけて
シュッと 風呂行きまんね。→
帰ってくるっちゅうと
もう お膳の支度ができてはるわ。→
好きな女子と差し向かい。
ちょねちょね飲んで 酔うた時分に→
『おい 寝よか』言うて
ゴロッと寝まっしゃろ。→
目ぇが覚めると楊枝くわえて手拭いかけて
シュッと 風呂行きまんね。→
帰ってくるっちゅうと
もう お膳の支度ができてはる。→
女子と差し向かい。
ええ具合に飲んで 酔うた時分に→
『おい 寝よか』言うて
ゴロッと寝まっしゃろ。→
目ぇが覚めると
楊枝くわえて 手拭いかけ…」。
「いや… あんたね どうでもよろしけど
さっきから聞いてたら あんた→
一杯飲んで 風呂入って
寝てばっかりいてはりますけど→
それ あの 当たってからの話でっしゃろ」。
「そうそう」。
「当たらなんだら どないしなはんの?」。
「当たらなんだら うどん食て寝る」。「えらい違いやがな」。
皆がワアワア ワアワア
言うとおりますうちに→
世話方が富くじの箱を
ガラガラ~ン ガラガラ~ン。
一度 この蓋を開けまして
中をあらため また蓋をいたしますと→
横手にいておりました 11~12の男の子が
柄の長い錐のようなものを→
プツッと突き刺しまして
こいつを前へグ~ッと突き出す。
世話方が これを取りまして
大きな声で読み上げます。
「第一番の御と~み~」。
声がかかりますと 境内の人わら灰に水を打ったようにシ~ン。
「子の千三百六十五ば~ん」。
「ふう~」。
「ちょ… ど… どないしな…
どないしなはったん?」。
「す… すれた。 すれた」。