近頃 信長様の京での評判が芳しくない。
お公家の機嫌ばかり取る政で
町衆には不服が高まっておるやに聞く。
ああ… 信長様は お公家でも→
二条関白様の一派にだけ肩入れし→
己に親しむ帝のお子の→
春宮様を ひいきにされるというので→
朝廷の中でも不満があると
聞いております。
さすがに詳しいな。 ハッハッハ…。
(菊丸)薬を売って歩くとお公家の館にも参ります。→
信長様が二条様と手を結び
帝に譲位をお勧めして→
春宮様を帝にしようとされてるとか
驚くような話も耳に入ってきます。
しかし そういうことも全て
三河の殿にお知らせするのだな?
は?
三河の家康殿は→
織田と手を結んでおられる。
しかし 信長様がまことに頼れる相手かどうかは→
気になるところだ。 違うか?
それは…。今更 隠すな。
羽柴秀吉殿が そなたを疑うておる。
そろそろ潮時かと思うぞ。
≪そなたは わしが困っておる折
何度もひそかに助けてくれた。→
かたじけないと思うておる。
それゆえ 逃げてほしい。
秀吉殿の手下は動けば早い。
すぐ京を離れる方がよい。
それだけ 伝えておく。
また会おう。
さて わしは
鍼をうってもらうことにするか。
十兵衛様…。
私は…このところ ずっと迷うておりました。
私は… ここの今の暮らしがよいのです。
駒さんと… 薬を作って…同じ家の中で…。
三河のために
命を捨ててもよいと思いながら…→
もう お役目を返上したい…
お恥ずかしい話ですが→
そう思うこともあるのです。
三河へ帰っても もう家で私を待つ者は誰もおらぬのです。
皆 死に絶えまして…。
≪(菊丸)こうして駒さんのもとで薬を作っていると…→
時々 三河のことを忘れていて…。
(たま)ああ 表に こんな小さな猫が…。
申し訳ござりませぬ。
つまらぬことを申しました。
仰せのとおり 潮時かと…。
駒さんや東庵先生を巻き込む前に行こうと存じます。
(たま)駒さん どうしました?
(駒)小屋の中で お父上と菊丸さんが 大層難しいお話をしておいででしたので→
邪魔をしてはいけないと思い…。
父上が?
今朝方 東庵先生に鍼をうって頂こうかと
申しておりましたが…。
難しい話というのは
どれほど難しいのですか?
(駒)人には言えないほど。
私も…人には申し上げられぬ話があります。
でも 駒さんになら言えるかもしれません。
どういうお話ですか?
父上が 私に
嫁に行く気はないかと尋ねられたので→
ないとお答えしたのです。
母上が亡くなり父上一人を残して… 嫁には行けませぬ。
父上が戦に行かれるのを 母上は いつも
父上の姿が見えなくなるまで→
見送っておいででした。
私も そうしてさしあげたいのです。
それが 戦にお供できぬ
私のせめてもの務めだと…。
一生 お父上のお見送りを…?
そう。 一生。
でも お父上は この先 50年も100年も
戦に行かれるわけではありませんよ。
人は いずれ遠い所へ旅立つのですから。
分かっています。だから 悩んでしまうのです。
どうすればよいのか…。
(駒)たま様…→
お父上のことはおいて
ご自分の行く末を考え→
後悔のないよう
万 お決めになればよろしいかと思います。
♪♪~
(鼓の音)
(掛け声と鼓の音)
十兵衛 そなたが参ると聞いていたので鼓を用意してある。
共に打たぬか。
近衛様も楽しみにしておられた。
(近衛前久)明智殿 丹波以来じゃな。
はっ。 お噂ではしばらく九州におられた由。
いやはや 聞いてはおったが
信長殿は人使いが荒い。
京へ戻りたければ わしの使いで
九州へ行けと いやおうなしじゃ。
立っておる者は