目の動きです。
智子さんは何に関心があるのか
時間をかけて探っていきます。
重度の障害者を
心失者と決めつけた植松被告。
現場では、丁寧に
その意思をくみ取る日々が
続いていました。
事件当時やまゆり園で生活していた
平野和己さんも
新たな支援を受け始めています。
事件の前は
ことばは少し話せるものの
行動からは意思が見えにくいと
されてきました。
険しい表情で行き来したり
突然、人をたたいたりすることもありました。
昼食のとき
職員は和己さんの障害のある特性に気付きました。
箸は、弁当の上をさまよい
何もつまもうとしません。
軽く手を添えると、ごはんを
口に運ぶことができました。
職員は
同じ動作を繰り返してしまう
障害の特性ではないか
と考えました。
食べたいという意思はあるものの
それが障害によって妨げられ助けがないと
食べ物を口に運べないのです。
和己さんの障害の特性を踏まえて
支援が始まりました。
和己さんが、お風呂の順番を待っていたときのことです。
≫いってらっしゃい!
しかし、風呂場の手前で引き返してしまいます。
事件の前は
こうした行動が続き
入浴しないことも
あったといいます。
同じ行動を繰り返す
障害の特性によって
お風呂に入りたいという意思が
妨げられているのではないか。
≫行こう、行こう、行こう。
行くよ、行くよ、大丈夫、大丈夫。
職員が後押しし
ようやくお風呂に入ることができました。
松田智子さんです。
支援が始まって3か月がたちました。
この日
近くのカフェに出かけました。
智子さん
39歳の誕生会が開かれました。
≫どれが、いいだろうね?
智子さんがビーフシチューを見ていることに
職員が気づき、注文しました。
≫ごめんね。
あ!見てた?
見てて、覚えたんだ。すごい、智子さん。
つけたほうがおいしいって
分かったね。
やっぱ、分かってたんですかね
今のね。
3か月前は目の前の飲み物に
手を伸ばそうとしなかった智子さん。
≫すごい、切ろうとしてる。
すごい、すごい、すごい。
見えづらくても
確かにある意思。
ともに探る模索が続いています。
≫あ、おいしい!おいしい!やったー!
事件から2年。
障害者や支える人たちにはさまざまな変化が生まれています。
その一方、NHKのサイトに
寄せられた声からは
今なお事件が突きつけた問いに
戸惑う社会がかいま見えます。
そうした中、植松被告は
今月出版された本に手記を寄せ
さらに、みずからの主張を
広めようとしています。
社会は事件と
どう向き合っていけばいいのか。
映画監督の森達也さん。
さまざまな人たちが共生する社会を
「きれいごと」だと
片づけてしまわないことが
大事だといいます。
自身も障害のある東京大学准教授の熊谷晋一郎さん。
立場の弱い人を排除し
多数の意見が正しいとする
今の社会には
発想の転換が必要だと指摘します。
事件は、それまで
障害者と無縁だった人たちにも
変化をもたらしています。
短大で社会福祉を学び始めた佐藤彩水さん、18歳。
事件当時は高校生で
被告の主張についてはほとんど知りませんでした。
ことし5月、指導教官が