おやじもまた ルシャで生きる中で→
同じような考えに至った。
人間の営みも ヒグマたちの暮らしも→
同じ雄大な自然の一部なのだと。
今 豊かなルシャの海で異変が起きている。
地球規模の気候変動の影響なのか
海水の温度変化が激しい。
サケやマスの漁獲が
ここ数年 思わしくない。
ルシャ川で 獲物の奪い合いが始まった。
弱い者は 川から追い出されて魚にありつけない。
飢えて痩せ細ったヒグマが
番屋にやって来た。
≪こらっ…!
≪こらっ!
しかし おやじたち漁師は
決して餌を与えない。
食べ物欲しさに
かえって 人を襲うようになるからだ。
目に見えて弱るヒグマが続出した。
不漁が続いた この2年→
分かっているだけで
9頭のヒグマが死んだ。
子どもを連れた母熊。
漁師の網に 魚が残っていないか探し始めた。
叱っても いつものように逃げていかない。
そして…。
≪うわあ~!
≪こらっ!
漁師に向かって突進。
異常事態だ。
最後に おやじが立ちはだかった。
おやじの気迫が勝った。
飢えた親子は どうしたのだろうか。
番屋の近くであの母熊が魚を見つけたようだ。
夢中で食べ始めた。
(子熊の鳴き声)
子熊が泣き叫ぶが 分け与えようとしない。
結局 子熊は 僅かなおこぼれを口にしただけだった。
そして 悲劇が起きた。
番屋近くの崖に あの親子の姿があった。
ずっと 子熊の体を なめ続けている。
栄養失調が原因だった。
時に 非情な顔を見せる大自然。
死んだイルカだろうか?
この日
ルシャの海岸に死骸が打ち上がった。
そこに姿を現したおやじ。
流されないようにロープで縛った。
♪♪~
この海の恵み。
ヒグマたちの命をつないだ。
おなかがいっぱいだから。
食べ物を与えないことを
みずからに課してきたおやじ。
ヒグマにしてやれる
ぎりぎりのことだった。
♪♪~
去年9月。
ルシャを揺るがす
もう一つの事態が起きた。
世界自然遺産の調査団が
視察にやって来たのだ。
おやじは漁師の代表として呼び出された。
ユネスコから委託を受けた→
アメリカの自然保護の権威…
大瀬さんです。
はじめまして。
≪この先にですね 番屋がありまして→
番屋を拠点に
定置網漁業をされている方です。
世界自然遺産 知床に対する→
ユネスコの基本的な考え方。
それは 人工的なものを排除し→
自然そのものの姿を後世に残すことだ。
5年前 ユネスコは→
ルシャ川を横断する道路や橋などを撤去するよう→
日本政府に勧告してきた。
番屋から1.2キロの所にある…
河口付近には
橋や道路が架けられている。
さらに その上流には砂防ダムがある。
これは 大雨で山から流れ出た木々が→
沖合の定置網を破ったことをきっかけに
造られた。
しかし ユネスコは このダムが→
サケやマスの遡上を妨げていると指摘してきた。
漁への影響はあるものの
帰ってくるサケが増えるならと→
おやじはダムの撤去には合意していた。
今後 北海道が 撤去工事を本格的に始めることが確認された。
残された問題は 道路と橋。
橋は 川の蛇行を妨げ 流れを速くする。
その結果
川底の砂や小石が押し流され→
魚が産卵する環境を悪化させるという。
しかし この橋や道路がなければ→
海が荒れたときや
病気やけがなどの緊急時に→
身動きが取れなくなってしまう。