♪♪~(キーボード)
♪♪~
歌が 生まれようとしていた。
イギリス・ロンドンの自宅。
♪♪~(キーボード)
アー ウーウー ウー ウウー。
♪♪~(キーボード)
(パソコン)♪♪「不器用に」
(キーボード)(パソコン)♪♪「欲しいものが」
(キーボード)
(パソコン)♪♪「手の届くとこに見える」
♪♪「追わずにいられるわけがない」
♪♪「正しいのかなんて本当は」
♪♪「誰も知らない」
♪♪「風に吹かれ」
日本の音楽シーンを変えた
シンガーソングライター。
デビューから 20年。
その制作の現場に初めてカメラが入った。
そこで見たのは→
もがき→
さまよい→
苦しみと向き合う 素顔。
音楽に ただ 求めるのは。
1月 ロンドンは長い冬を迎えていた。
市街地にある
歴史ある音楽スタジオ。
今回 取材が許されたのは
ディレクター1人。
スタジオに
ヨーロッパ各地から続々と→
ミュージシャンが集まってくる。
♪♪~(ドラム)
♪♪~
グラミー賞など 世界的な賞の作品にも参加してきた→
超一流の彼らが 待ち受けるのは。
(取材者)今日から撮影よろしくお願いします。
宇多田ヒカル。
10か月前から始まったアルバムの制作は→
佳境を迎えていた。
♪♪~
宇多田のレコーディングは
決まってバンドの演奏から始まる。
♪♪~
メンバーは 事前に宇多田が音楽ソフトで作った→
メロディーや 仮の歌が入った
デモ音源をもとに 演奏を行う。
♪♪~
楽曲作りにおける 宇多田の役割→
それは まさに 「すべて」だ。
歌のメロディーを作る 作曲。
そして 作詞。
更に 楽器の編成→
バンドや オーケストラなどの
旋律やリズム→
弾き方に至るまでを 設計する。
宇多田は1人で作る事に長年 こだわり続けてきた→
希有なアーティストだ。
♪♪~
宇多田ヒカルを
宇多田ヒカルたらしめているもの。
それは ここからの曲作りにある。
この曲で描くのは 思春期の恋心。
宇多田が大切にするのは
曲に込めた 「感情」だ。
♪♪~(ドラム)
♪♪~
♪♪~
♪♪~
それぞれの楽器が
感情に身を委ね始めた。
Yeah.
宇多田が自身の音楽作りで貫き通す 思いがある。
♪♪~
♪♪~
オツカレサマデシタ。
そして 3日後。
歌のレコーディングを迎えた。
宇多田はすべての演奏を録り終えたあと→
作詞に取りかかっていた。
音楽作りは 冒険。
歌詞は 幾重もの演奏を積み重ねた
その先に→
ようやく姿を あらわすという。
♪♪~(「Good Night」)
♪♪~
この曲の感情を 歌にのせる。
♪♪~
♪♪~
宇多田は 探り続けた。
♪♪~
♪♪「It’s automatic」
宇多田ヒカルさんのデビューは 15歳。
それは あまりにも鮮烈だった。
♪♪「I’m movin’ on without you」
ファーストアルバムは
その年だけで→
売り上げ 700万枚を突破。
日本記録を打ち立てた。
♪♪「こんな思い出ばかりの」
♪♪「花束を君に」
心を揺さぶるメロディ-と
深く刺さる歌詞。
独自の表現を切り開き
世の中を驚かせ続けてきた。
♪♪「きっと山ほどあるけど」
宇多田さんは どのようにして曲を生み出しているのか。
その一端が 今回 自ら撮影した
自宅の映像にある。
(キーボード)
(キーボード)
(キーボード)
♪♪~(パソコン)
♪♪~
(キーボード)
♪♪~
♪♪~(キーボード)
♪♪~(パソコン)
(キーボード)アーアー。
(キーボード)
(キーボード)ウーウー。
(キーボード)
アーアー。
(キーボード)
(キーボード)
♪♪~(パソコン)
♪♪~(パソコン)
それは 自分の中にある
「何か」と向き合う→
極めて孤独な作業だ。
♪♪~(パソコン)
今回のアルバムで 宇多田が
特に苦しんでいる曲があった。
仮タイトルは…
この曲を作り始めたのは3年以上も前になる。
それは 前回のアルバムを
制作していた頃。
宇多田は このアルバムで→
亡くなった母歌手の 藤 圭子さんへの思いを→
かつてないほど
ストレートに歌った。
だが この曲は
そのテーマに収まりきらず→
持ち越してきたという。
♪♪~
「Ghost」は 自分を
一歩先に進ませてくれるはず。
しかし その思いとは裏腹に
曲作りは難航していた。
♪♪~(「Ghost」)
♪♪~
♪♪~(パソコン)
う~ん。
♪♪~(パソコン)
(キーボード)
う~ん。
突然 1冊の本を手にした。
♪♪~(パソコン)
それはロシア出身の作家→
ウラジーミル・ナボコフの
小説に記された詩。
主人公の詩人が→
家族や自分の死について考えを深め→
やがて
死を超越した世界を→
信じるに至る。
♪♪~(パソコン)
♪♪~
(朗読)
♪♪~
地獄のフタを 開けていく。
♪♪~
(朗読)
♪♪~
♪♪~
宇多田が 探し求めるもの。
♪♪~
♪♪~
スタジオレコーディングのある日。
≪じゃ 後ほどだね。
宇多田さんは言う。
「スタジオは
自分にとって特別な場所」だと。
♪♪~
ララララ ララララ ラー。
♪♪~
ララララ ララララ ラー。
♪♪~
ララララ ララララ ラー。
1983年 宇多田さんは
歌手 藤 圭子さんと→
音楽プロデューサーの父→
宇多田照實さんとの間に生まれた。
家族の暮らしは音楽を
中心に回っていた。
宇多田さんは物心つく前から
スタジオで→
両親が作業する傍ら
ごはんを食べ 眠った。
父がニューヨークを拠点に
活動していたため→
日本とアメリカを
頻繁に行き来し→
急な引っ越しも日常茶飯事だった。
そんな目まぐるしい生活の中で宇多田さんは→
気持ちを押し殺す
大人びた子供になっていった。
こう記している。
そのころ 母 藤 圭子さんが→
スタジオでのレコーディング中
ふと言った。
「ちょっと恥ずかしい」とか…
それから 宇多田さんは音楽作りに没頭した。
曲や歌詞に
自分の気持ちを詰め込んだ。
両親が喜んでくれるのが
何より うれしかった。
音楽は 宇多田さんにとって→
思いを伝えられる「救い」となった。
♪♪~(「First Love」)
そして 電撃的なデビュー。
宇多田さんの人生は→
大きく変わった。
♪♪「Traveling 君を
Traveling 乗せて」
発表したアルバムのすべてが
100万枚を突破。
瞬く間に 時代の寵児となった。
♪♪「遠くなら何処へでも」
♪♪「青い空が見えぬなら
青い傘広げて」
ところが。
トップアーティストとして走り続けていた最中。
突然 活動休止宣言をする。
日本中を驚かせた27歳での決断だった。
宇多田さんは スタジオを後にし→
誰も自分の事を知らないイギリスに 単身移り住んだ。
自ら部屋を借り
スーパーで買い物をした。
音楽から離れた
初めての経験だった。
しかし
宇多田さんの人生を揺るがす→
大きな出来事が起きる。
母 藤 圭子さんが 亡くなった。
耐えがたい喪失感が
宇多田さんを襲った。
何も手に付かないまま
1年が過ぎた。
そんな宇多田さんの気持ちを
動かしたのが→
初めての子供を宿した事だった。
自分も母となり あふれ出てきた亡き母への感情。
この「真実」を
歌にせずにはいられなかった。
♪♪~
活動休止から5年。
宇多田さんは再び
スタジオに戻った。
♪♪~
♪♪「欲しいものが」
♪♪「手の届くとこに見える」
宇多田さんは これからも 歌う。
♪♪「正しいのかなんて本当は」
♪♪「誰も知らない」
3月半ば。
ニューアルバムの制作は大詰めを迎えていた。
(笑い声)
残り2週間余りであの「Ghost」を含む3曲を→
同時進行で
制作しなければならない。
この日は アルバムのタイトル曲
「初恋」のレコーディング。
ここからが 正念場だ。
宇多田は 恋の始まりとも終わりともとれる→
繊細な感情を
曲に表現しようとしていた。
♪♪~
だが。
メンバーから 宇多田が曲の中心に
考えていたピアノを抑え→
ドラムを浮かび上がらせたら
どうかという提案が出た。
♪♪~
♪♪~
演奏として
確かに この方法もある。
しかし 本当に
これが追い求めるものなのか。
突然。
大胆にも ドラムとベースをなくすと決めた。
♪♪~
迷いながらも宇多田は自分の中の真実を→
探し求め続けた。
♪♪~
だが。
まだ 迷いのただ中にある曲があった。
♪♪~
「Ghost」だ。
♪♪~
♪♪~
曲に合わせ あのロシア出身の
作家の詩を読んだりもしたが→
メロディーは 一向に決まらない。
♪♪~(宇多田)ラーララー。
♪♪~
ララーラーラー ラーラーラー。
♪♪~
翌日には バンドのレコーディングが始まる。
♪♪~(「Ghost」)
この曲は 自分を一歩先に進ませてくれるはず。
宇多田は もがきながらも
自らと向き合い続ける。
♪♪~(パソコン)
う~ん。
♪♪~
(歌声)
♪♪~(「Ghost」)
♪♪~
レコーディング 当日。
結局 これだというメロディーは見つからなかったという。
宇多田は
メンバーに正直に話した。
感じるままに演奏してほしいと
伝えた。
♪♪~(「Ghost」)
♪♪~
♪♪~
♪♪~
何かが 形になろうとしていた。
あとは 宇多田に託された。
しかし。
2週間が過ぎても→
「Ghost」の歌詞は
出来上がらなかった。
この日が ロンドンでの
レコーディング最終日。
宇多田は 姿を現さなかった。
♪♪~
だが2週間後 連絡が入った。
宇多田が ついに歌詞を完成させ歌を録音するという。
タイトルが 変わっていた。
「夕凪」。
自らの体験を大きく膨らまし→
浮かび上がってきたものを歌詞にしたという。
♪♪~
すべてのものには 終わりがあり→
そして それは始まりでもある。
これが たどりついた真実。
♪♪~
正直である事。
自分と向き合うっていうのは
そういう事ですね。
自分に うそついてても
しょうがないけど→
でも自分に いっぱい
うそつくじゃないですか。
見なくていいもの 見ないし。
…っていうのではなくて こう→
かっこ悪い事も 恥ずかしい事も
認めたくない事も→
全部含めて自分と向き合う
という事なので。
音楽に対して正直である事ですね。
自分の聖域を守るっていう事です。
♪♪「何処かへと向かいます」
♪♪「これまでと変わらず」
2018/07/16(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・大阪
プロフェッショナル 仕事の流儀「宇多田ヒカル スペシャル」[解][字]
宇多田ヒカルの音楽制作の現場に初めてカメラが入った。ロンドンの自宅やスタジオで、曲作りに悩み、もがきながらもチャーミングな素顔を見せる宇多田ヒカルに初密着!
詳細情報
番組内容
シンガーソングライター・宇多田ヒカル。15歳の鮮烈なデビューから20年、音楽制作の現場に初めてカメラが入った。作詞、作曲、そして編曲まで、曲作りの全てを一人で行う宇多田。ロンドンの自宅やスタジオでの日々は、ひたすら自分の内面の奥深くをみつめ、そこにある“感情”や“真実”という自分にしか分からないものと向き合う、途方もないものだった。悩み、もがきながらもチャーミングな素顔を見せる宇多田ヒカルに迫る。
出演者
【出演】シンガーソング・ライター…宇多田ヒカル,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化