2019/05/14(火) 00:20〜01:10 プロフェッショナル 仕事の流儀「我流、肉道〜精肉店店主・新保吉伸〜」[解][字][再]

名もなきノーブランドの牛肉がその手にかかれば→
最高ランクを超える味へと
変貌を遂げる。
孤高の精肉店 店主。
近江牛のお膝元…
同業者と顔を合わせる競りの日は
憂鬱でしかたがない。
あえて高級和牛を買わない新保を
異端視する同業者もいるという。
この日も 一人
淡々と理想の牛を物色する。
和牛には
その価値を示す明確な指標がある。
柔らかさを示す脂の量や肉の光沢。
赤身とサシと呼ばれる脂身がきめ細やかな層を成すほど→
市場価値が高い。
だが 新保が狙いを定めたのはA2。
しかも 群を抜いた高齢の牛。
肉質は固く あえて手を出す業者は少ない。
一方 新保が狙いを定めた経産牛。
(競りのアナウンス)
ランクの劣る経産牛であっても→
ドライエイジングと呼ばれる熟成方法を→
新保ならではの技術で進化させ→
新保が「手当て」と呼ぶ作業は50キロ以上ある巨大な塊を→
部位ごとに解体することから始まった。
牛の骨格や肉の付き方を知り尽くした新保。
骨を残すことで 肉の表面が空気に触れて
酸化することを抑え→
続いて 新保ならではの


熟成の手当てに入った。
その肉に最適な熟成を施すため→
まず 五感を使って肉の特性や状態を見極めていく。
一般的な熟成では すぐに肉を
熟成庫という部屋に入れるが→
新保は この水分を抜く下処理に
時間をかける。
腐敗を引き起こす
余分な水分を徹底的に抜くことで→
一頭の牛でも 部位によって
その水分量は千差万別。
包み方までも変える。
更に 湿度を細かく調整できる特製の冷蔵庫で寝かせる。
肉の表面は乾き
最適な水分量となっていた。
ここからが正念場。
重要な役割を果たすのが微生物の温床となっている この肉の塊。
新保は研究を重ね 熟成に最適な微生物を
9年かけて育ててきた。
乳酸菌や酵母菌などの菌が
肉のタンパク質を分解し→
2週間後 その証拠となる白いカビが
表面に生え始めた。
行き過ぎれば腐敗と隣り合わせの熟成。
新保は毎日 見回っては熟成の度合いを確認する。
うまみが最大になりながら
経産牛の個性が失われない→
求める肉を こう表現する。
この日もまた 個性的な肉が生まれた。
その思いは 更に強くなっている。


年をとり 満足な乳を出せなくなった酪農牛は→
キロ数百円という安値で処分される。
新保さんは そうした牛さえも進んで引き取ってきた。
今や 料理人の間では
A5の霜降りよりも希少価値が高い。
(取材者)きれいですよね 景色が。
新保は 高層マンションの一室にある料理教室を訪れていた。
40軒の店だけにしか卸していない。
新規の依頼者には 直接会いその腕や人柄を自らの目で見定める。
腕は確か。
新保は 更に自分の肉を使う目的を問い始めた。
豚は流通の少ない
希少品種に限って使用し→
教室の売りにしたいという。
うわ 難しいな… 難しい それは。
しゃべってるのが 100なんで…
思ってますね。
北海道 帯広までやって来た。
事前連絡は一切なしの抜き打ち。
質問攻めの相手は
シェフだけに とどまらない。
過剰なまでに腹を割ったつきあいを
相手に求める新保さん。
精肉店を営む家に生まれた新保さんは→
26歳で独立。
和牛ブームの波に乗り
肉を買い 売りまくった。
競りでは常に サシがたっぷり入った
A5ランクの肉を→
やり手のお肉屋さんとして 30代半ばで

契約業者は500軒を超えた。
だが 40歳の時
業界を揺るがす大騒動が起きた。
当初 新保さんは楽観視していたが
半年を過ぎた頃から売り上げが激減した。
500軒の取引先が3年でゼロになった。
ただ むなしかった。
残ったのは 3,000万円の借金。
新保さんは再起を懸け意外な手に打って出た。
当時は まだ珍しかった