2020/12/13(日) 05:15〜05:45 桂文珍の演芸図鑑 選「六平直政 春風亭昇々 三遊亭志う歌」[字]


だったら そう言って下さいよ。→
あのね みんな言ってくれりゃ分かんすよ。
あっしだって まんざら→
バカじゃねえんですから。→
髭描くったってね。 こっちも世間体ってもんがありますからね。→
へい」。

「描きやした」。
「お前
インチキな手妻使いじゃねえんだから。→
それっぱかり描いてどうすんだよ。
下 みんな塗っちまうんだ。→
人相 分からなくするんだから」。
「だったら そう言って下さい。あっしだって まんざら…」。
「バカだよ お前は!→
そうそうそう。 そんなもんでいいよ。筆 置け。 そうだ うん。→
でな そこに風呂敷包みがあるだろ。
うん それも持ってくぞ。→
それからな 脇んところにドスがあんだろ。
それも持ってくぞ」。
「ドス? ああ これですか うん。→
このドスってのはどういう訳でドスってんですか?」。
「それは お前 決まってんじゃねえか。→
ドッと刺して スッと抜くからドスてんじゃねえか」。
「ドッと刺して スッと抜く。
それでドスですか。→
じゃ スッと刺して ドッと抜いたら
スド…」。
「どっちだっていいんだ そんなこたあ。
のんどけよ」。
「えっ?」。


「のんどけよ」。
「…へえ。→
そらあ 頭の言いつけですからね。→
あっしだって男ですから
やる時はやりますよ。 へい」。
「ああ…→
できない!」。「何をしてやんだ てめえは!→
のむって そうじゃねえ 懐へしまうことを
のむって言うじゃねえか」。
「だったら そう言って下さい。
あっしだって まんざら…」。
「バカだよ お前は! ほんとにもう。
ああ それでいいよ。→
よし じゃ ちょいと出かけるぞ。→
おい 何をしてやんでえ早いとこ出てこいよ。→
おい!
お前 何で 提灯持ってくんでえ」。
「えっ だって ほら 暗いですから」。
「暗いから商売ができるんじゃねえかこっちは。 置いてこい んなものは。→
で あと ぴたっと閉めろい」。
「え?」。
「いや あとをぴたっと閉めろってんだよ」。
「何で?」。
「何でって お前…→
物騒じゃねえかよ」。
「だって 今
中から ぬすっとが2人出てきて…」。
「うるせえ この野郎。
いいから ついてこい。→
ほんとにまあ てめえと 話 してると

こっちはよう イライラするよ」。
「そうですよね どうもすいません 頭。→
あの あんまりイライラさせねえようにしますんで どうか ひとつ…」。
「分かったよ。
これから行くのはな 鈴ヶ森よ」。
「え?」。 「鈴ヶ森よ」。
「鈴ヶ森? よしましょうよ。→
あそこは
幡随院長兵衛とか白井権八とか→
そういう おっかねえのがね
出てくるんすよ」。
「いつの時代の話をしてやんでい。→
これから俺たちは追い剥ぎを働くんでい」。
「追い剥ぎですか。
それはちょいと たちがよくない」。
「そういう稼業だ 俺たちは。→
いいか? 向こう行ったらな 藪があるよ。この藪ん中に ひょいっと隠れるんだ。→
そうこうしてるとな
旅人が通りかかるよ。→
まずは一旦
その旅人をやり過ごしておいて→
行ったなっと思ったら
ひょいと藪から出てって→
こっちっから声をかけるんだい。→
『お~い 旅人。 お~い 旅人。→
ここを知って通ったか
知らずに通ったか。→
明けの元朝から暮れの晦日まで
ここは 俺の頭の縄張りよ。→
知って通ったというのなら 命はねえ。→

知らずに通ったというのなら命は助けてやる。→
そのかわり 身ぐるみ脱いで置いていけ。→
嫌とぬかしたのなら 最後の助だてには差さねえ→
2尺8寸段平物を うぬの腹へ
お見舞え申すぞ~!』」。
「音羽屋!」。
「何を言ってやがんでい この野郎。→
お前がやるんだよ」。
「私 これ やるんすか? そら無理ですよ」。
「よし 分かった。