あまたの手柄があったと…。
(利三)
かたじけなきお言葉。 恐れ入りまする。
うむ。 こたびは ご主君の稲葉殿と
馬をよこせ よこさぬで→
争うたそうだな。
1貫やるから よこせと仰せになり→
100貫でも
お譲りいたしませんと申し上げると→
この顔 目がけて
草履を投げつけられました。
それで… ご主君を捨てようと?
我が主君は 美濃の守護土岐頼芸様の家臣でございました。→
しかし 斎藤道三様に分があると見て
道三様に乗り換え→
道三様のご嫡男 高政様が有利と見るや
また乗り換え→
高政様が病死なさると
ご嫡男 龍興様に乗り換え→
信長様が勝つと見て
龍興様を見捨てたお方でござります。→
侍たる者は 己の主君に誇りを持たねば
戦で命をなげうつことはできませぬ。
これまで 某は 稲葉様の盾となり
戦うてまいりましたが→
この顔に草履を投げられ
もはや これまでと…。
しかし 何故 私の所に?
3年前の比叡山の戦に某も出向きました。→
信長様は 女 子どもも斬れと
命じられましたが→
明智様は そうされませんでした。
信長様の陣営にあって→
それが おできになるのは
明智様お一人かと存じます。
明智様がご主君なら いかなる戦にも
身をなげうつことができる→
そう思い!→
ご家来衆の末座にお加え頂きたく…何とぞ…。
う~ん…。
御免。
十兵衛
わざわざ呼び立てて すまなかった。
楽にいたせ。
はっ。
バテレンの土産物じゃ。
あの者たちは ここから参ったのじゃ。
ルソンやゴアより向こうの地の果てから。
己の信じる神の教えを広めるためにじゃ。
そなたと大きな世を作ろうと話したが
あの者たちの志も負けずに大きい。
話すと面白い。
手を出せ。は…。
バテレンの菓子じゃ。
食べるとポルトガルの味がするぞ。
ところで 今日来てもろうたのは
小さな話じゃ。
は…。
この小さな国のささいな話じゃ。
稲葉一鉄の家臣で
斎藤利三という者がいる。
その利三が
そなたの城に逃げ込んだであろう。
訳は いろいろあろうが
稲葉が腹を立てておる。
利三を稲葉に返せ。
稲葉は美濃の国衆を よう まとめてくれておる。
つむじを曲げられては面倒。
事を穏やかに収めたい。
稲葉殿は あのご気性。
利三は 帰れば斬られましょう。
事は穏やかには済みませぬ。
やむをえまい。 一人の命のために→
美濃の中を
無駄に騒がせるわけにはいかぬ。
殿が 一人の命を大事にされると分かれば
国衆は かえって殿を敬い→
美濃は穏やかに治まりましょう。
わしは 一人の命を大事に思うておる。
それゆえ 公方様も手にかけず 丁重に
若江城にお移り願うたではないか。
丁重に?
木下藤吉郎は 殿のお指図と言い公方様を城から引きずり出し→
宇治から河内の若江城まで
着のみ着のまま はだしで歩かせ→
人々の嘲りを受けさせた。
武家の棟梁たるお方の扱いとは思えぬ仕打ちでございました。
戦に勝っても あれでは諸国の大名を
心服させることはできませぬ。
とにかく 利三を返せ!
その儀 ご容赦願います。
何!?
殿は 三淵様にも 紙切れ一枚で死をお命じになられました。
三淵様は 理非をわきまえられた
立派なお方でございました。
1年後 2年後 我らの思いをお伝えし
幕府で培われた力をお借りして→
共に世を治めて頂けたやもしれませぬ。
そのお方を 何故 斬ってしまわれたのか!
公方様が去られ 殿が