野生のヒグマを叱る男がいる。
仲間内で
「ヒグマのおやじ」と呼ばれている…
世界自然遺産 北海道の知床。
あれ 動いてる! 動いてる!≪本当 本当 本当。
≪今 だいぶ出てきました。
≪本当だ。
ここは およそ500頭のヒグマが
生息する→
世界有数の密集地帯だ。
(咆哮)
人間を襲うこともあるヒグマ。
そのヒグマと隣り合わせで暮らすのが→
おやじたち 15人の漁師だ。
しかし 今おやじとヒグマが暮らす この場所で→
異変が起きている。
≪うわあ~!
≪こらっ!
人間を威嚇する事態が相次いだ。
≪(大瀬)おい!
≪えい!
かつてないほどの飢えに襲われた。
さらに 人とヒグマの共存そのものが存続の危機に立たされている。
世界自然遺産に登録されたことで
ユネスコから→
漁に使う橋や道路の撤去を
求められたのだ。
こらっ!
人と自然の関わりは どうあるべきなのか。
ヒグマと老漁師の日々を見つめた。
カメラの前に姿を現したのは→
警戒心が極めて強い野生のヒグマ。
大きいほうは オス熊。
体長は およそ2メートル。
体重は 優に300キロを超える。
おお…!
交尾を始めた。
野生のヒグマの交尾は→
めったに見ることができない。
そこから
僅か30メートルの所にたたずむ→
一人の男。
ヒグマのおやじ…
発情しているオスは
極度に興奮していて→
何をしてくるか分からない。
オスが近づいてきた。
ヒグマが本気で走れば 時速60キロ。
とても逃げられない。
おやじが叱ると あっさり引き下がった。
世界広しといえど→
人とヒグマが
こんなに近くで暮らす場所は→
ほとんどない。
ここは2005年に世界自然遺産に登録された→
北海道の知床。
4,000を超える多様な動植物が生息している。
ユネスコが 特に評価したのは→
海から陸へとつながる独自の生態系。
♪♪~
川を遡上するサケやマスが豊かな海の栄養を山へと運び→
知床の豊かな自然を育む。
この知床の生態系の頂点に君臨するのがヒグマだ。
およそ7万ヘクタールに及ぶ→
世界自然遺産の指定区域。
その中でも
特別に保護されている地域がある。
ヒグマの世界的密集地帯…
「ルシャ」とは アイヌの言葉で「浜へ降りる道」という意味だ。
ここには かつて
アイヌの人たちの集落があった。
ルシャでは いにしえの時代から→
川の恵みを人とヒグマが分け合ってきた。
そして そのルシャの一角に
ぽつんと立つ建物。
戦後 ヒグマのおやじが建てた漁の拠点
「番屋」だ。
おやじは
20キロ離れた港町から→
ルシャにやって来る。
11月までの およそ半年間→
この番屋に仲間たちと寝泊りしながら
漁を行う。
冬の間閉めていた番屋を開けるおやじ。
腰に小刀を携えて中に入る。
出会い頭にヒグマに出くわすと
危ないからだ。
番屋周辺も見回る。
すでに 冬眠から目覚めているようだ。
(取材者)鹿?
食いちぎられた鹿の足が落ちていた。
ヒグマの仕業だ。
(取材者)熊がですか?うん。
朝4時半 ヒグマの気配を
背中に感じつつ→
おやじたちは 漁の準備を始めた。
ルシャに面した海は日本屈指のサケやマスの漁場。
定置網を仕掛けて 魚を取る。
(一同)せ~の…! せ~の…! せ~の…!
一度 網に入った魚の3割程度が