さっきから 分厚い本 読んでるな」。
「これよ これ。 これを読んでるのよ」。
「え？ 『大・大阪辞典』。 何や それ」。
「何やって
来月 あなた 大阪へ転勤でしょ？→
あなたはいいわよ
大阪生まれの大阪育ちだから。→
私はね 銀座生まれの銀座育ちよ。
あなたと出会って３年 結婚して２年。→
ず～っと あなたといるから 何か
変な大阪弁がうつっちゃったけんど…」。
「ホンマに変な大阪弁が
うつってしもうたなあ」。
「だからね あなたはいいけど
私はね 行くとなったら大変なのよ。→
神田の本屋で見つけたの
『大・大阪辞典』っていう本を。→
これを読んで 研究していこうと思って」。
「あの… 大阪は研究していくところやあらへんのや。→
あんなもんは 何気なく行ったら
ざっくばらんで みんな→
あったこうて優しいて
おもろいとこやから そんな研究…」。
「でもね 全然文化が違うのよ。
本によるとよ→
大阪は ＮＮＣだって」。
「うん？ ＮＮＣ。 ＮＮＣって何や」。
「Ｃは シティーっていうこと。
ＮＮシティー」。
「ほう～ ＮＮシティー。
どういうこっちゃねん そのＮは」。
「大阪の人って すぐに…
あなたもそうだけども→
お金のこと聞くじゃない。
『この服買ってきたの』って言ったら→
『なんぼしてん？』。
すぐ 『なんぼしてん』って言うでしょ？→
ほんで 自分が買ったんでも
『この財布 なんぼやと思う？』。→
『２万円ぐらい？』。
『残念でした １，９８０円。 安いやろ～』。→
安いのを自慢するじゃないの。
ＮＮのＮはね→
『なんぼ』のＮよ」。
「なら もう一つのＮは？」。
「すぐツッコむじゃないの
『何でやねん』言うて。→
あなた 帰ってきたらすぐ言うでしょ？
何か面白いことあったかって言うたら→
『オチはない？ オチは』。
『オチはないのよ』。 『何でやねん』。→
ＮＮシティーなのよ」。
「ああ そうかなあ」。「そうよ。 食文化も随分違うのよ」。
「食文化が違う？」。
「大阪はね 主食はごはんにしてね→
焼きそばを副食にして食べるでしょ？
焼きそばで ごはんを食べるから→
炭水化物人類なのよ。
ほいでね 言葉だって違うのよ」。
「言葉違うかな」。
「そうよ。 大阪はね→
鶏肉のことを かしわっていうでしょ？
あれ おかしいわ ほんとに。→
そして 画びょうのことを
押しピンっていうでしょ？→
両面テープのことを 両面テープ。→
あんなの使わないわよ」。
「あれ 両面テープは両面テープ…」。
「違うのよ 全然」。
「いやいや まあ そういうふうにな
ちょっと違うか分からへんけど→
そない違わへんがな。
大体お前もやで→
まあ つきおうてる時とか
結婚してからでも→
大阪へ何度も行ったがな。
道頓堀行ったら→
『いや～ カニさんもみんな動いてる～』
言うて→
『こんなにぎやか 毎日が祭りみたい。
大阪大好き すてき』なんて→
言うとったやないか」。
「あれは旅人として。→
住むとなったら大変よ あそこは。
あなた言ったでしょ？→
心斎橋筋 これは観光客の通りやから。
大阪の庶民の商店街は天神橋筋商店街。→
日本一長い商店街。
１丁目から７丁目まであって→
４丁目にある お好み焼き屋さんへ
行ったじゃないの」。
「ああ 割とおいしいとこな」。
「並んで入ったでしょ？ほいで食べて 外へ出た時→
あなたは計算してる時に 勘定してる時に
私 外へ出たらね→
一番前に並んでる大阪のおばちゃんから
声をかけられたのよ」。
「ああ 大阪の人は
ざっくばらんやからな」。
「『何食べはったん？』。