私が樹木希林さんの取材を始めたのは
去年の6月のことでした。
希林さんは、これまで
長期にわたる密着取材の依頼を
数知れず断り続けてきましたが
今回「私のことを
撮ってもいいわよ」と
初めて許してくれたのです。
樹木≫頭が回んなくてさ。
木寺≫どうしたんですか?
樹木≫毎日、違うことやるから。
しっかり逆毛、立ててください。
ちゃっちゃっちゃっともっと手早く。
議員が来るじゃない
こういうところへ。
そういう人は塗らないでしょ?
≫塗りますよ。
樹木≫あ、じゃあ
議員さん並みに塗ってくれる?
普通の。
≫分かりました。普通にやりますね。
カメラの前で希林さんは
ふだん目にすることのない素顔を見せてくれました。
どうも
本当にありがとうございました。
樹木≫どのくらいで?
≫えっと…。
これで、どうでしょう?
樹木≫いやー、安いなー。
あたし
ナレーションの値段よ、それ。
そうだ、いけねえ!
木寺≫いやいや、自分の話ですよ。
っていうイメージが
あるみたいですね。
樹木≫あるんだ、いいな。
ちょっといいじゃない。
なんだと…
化け物だと思ってんのかな?
なんなんだろうね。
樹木≫そいで、2018年の3月5日に行ったらね…。
思いがけない告白もありました。
希林さんは
なぜ、みずからの姿を
記録させようとしたのか。
私に何を託そうとしたのか。
1年間の取材が始まりました。
≫顔色がちょっとよくなりました。
樹木≫どうもありがとうメイクさん。
もう私は落とさないから。
スタジオで見るんだったら見てて。
去年7月。
希林さんは自家用車で
私の自宅近くまで
迎えに来てくれました。
おはようございます。
木寺≫おはようございます。
樹木≫なんとか来ましたよ。
木寺≫ありがとうございます。
希林さんは仕事場までの往復を
自分で運転します。
さらに、私の送り迎えも
引き受けてくれました。
まだ一人だからいいの、あなた。
あなた一人で来てねって頼んだから。
もう、照明があって
音声がついててっていうともう…。
嫌なもんですよ、本当に。
私が希林さんと出会ったのは3年前のことです。
福岡局で制作した
ドラマに出演してもらったのが
きっかけでした。
けんけんぱ。
初めての演出に戸惑う私に
希林さんは
「自分の思いどおりに
やればいいのよ」と
声をかけてくれました。
私は希林さんの魅力に
あっという間に
引き付けられました。
そして、東京に転勤したあと
希林さんのことをもっと知りたいと
密着取材を申し出たのです。
横横道路、並木…。三浦…。
希林さんは
この1年で4本もの
映画に出演することを
決めていました。
「現場に密着したら
番組になるかもね」と
取材に誘ってくれたのです。
最初の作品は
自然を描き続けた
実在の画家の物語です。
山崎努さんが画家を
希林さんがその妻を
ユーモラスに演じます。
この日は初めての衣装合わせ。
樹木≫そういうことしないために