その2週間後、私は再び希林さんのもとを訪ねました。
これまでに撮影した
映像の一部を
見てもらおうと考えたのです。
私が記録してきた希林さんのひと言ひと言が
いかにユーモアにあふれ
的確か。
そして
どれだけ人を魅了するのか伝えたいと思いました。
樹木≫頭が回んなくてさ。
木寺≫どうしたんですか?
樹木≫毎日、違うことやるから。
しっかり逆毛、立ててください。ちゃっちゃっちゃっと
もっと手早く。
どうも本当にありがとうございました。
樹木≫ギャラ、本当は
出演前に決めるんですよね。
どのくらいで?
いやー、安いなー。
あたし
ナレーションの値段よ、それ。
そうだ、いけねえ!
かわいそうに。
いいね、今の。いいじゃない。
おかしいよね、美容師の。
木寺≫かわいかったですか?
樹木≫おかしいよ。
こういうのいい。
うまい、うまい。
3年前のドラマをきっかけに
始まった長期の密着取材。
濱田≫おハルさんが幸せだなって
思うのは、どんなときですか?
樹木≫幸せ?
濱田≫今度、習字教室で「幸せ」って書くんです。
希林さんは私と一緒になって
番組に向き合ってくれました。
≫最後、のっかる
まげの位置は高い位置?
樹木≫それ見てごらんよ。
私に聞かないで、あなた。
自分で感じて。
私は分かんないんだから、後ろは。
≫はい。
そうよ。
希林さんは
一つ一つ確認するように
この1年の自分を見続けました。
樹木≫大丈夫よ。
責任、持たせるようなこと
しないから。
材料としては
ただただ撮ってただけでもおもしろい人間だよね。
なんにも出てこないタイプの
人間ではないよね。
これは、なかなか、いやー…。
だからこれが、どこいら辺までで完結するか分かんないけど…。
結論というのはね
十人十色あるわけだから。
でも途中で
「あ…あ…あー…私、これで終わりみたいね」っていうのも
また、よしというふうに考えてる。
7月、希林さんは4本目の作品に取りかかりました。
出演するのはドイツ映画です。
この日も、いつものように
衣装を
自分の手で直していました。
一回ここ止めて、ここ緩める?
≫アハハ。はいてないですもんね。
希林さんに
導かれるように過ごした
1年にわたる取材は
終わりを迎えようとしていました。
これが57年に及ぶ役者人生の
最後の撮影となりました。
♪「熱き血潮の」
♪「褪(あ)せぬ間に」
♪「明日の月日はないものを」
樹木≫ありがとうございました。≫サンキュー ソー マッチ!
≫希林さん、アップです!
(拍手)
残された映像には、最後まで
“樹木希林”を生き抜いた姿が刻まれていました。
木寺≫大丈夫です。帰れます。
2018/09/26(水) 19:30〜20:45
NHK総合1・大阪
NHKスペシャル「“樹木希林”を生きる」[字]
樹木希林さんが亡くなった。全身をがんに冒されていることを公表した後も、悲観せず、かといって気負いもなく、軽やかに女優として生きた希林さん。最期の日々を見つめた。
詳細情報
番組内容
『私を撮ってもいいわよ…』樹木希林さんから長期密着取材の許可をもらったのは、去年6月のことだった。人生の晩年をどのように生き、身じまいしようとしているのか?そもそも“樹木希林”とは何者なのか、向き合う日々が始まった。結果的に希林さんが出演する最後のドキュメンタリーとなった今回の番組。仕事、家族との関係、そして、日々の暮らし…。希林さんはどんな思いを託そうとしたのかを、見つめる。
出演者
【出演】樹木希林,是枝裕和
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番