2020/01/01(水) 05:25〜05:55 日本の話芸・選 三遊亭好楽 落語「薮入り」[解][字]

♪♪~(テーマ音楽)
♪♪~
♪♪~(出囃子)
(拍手)
昭和41年に 八代目 林家正蔵師匠んとこへ入門いたしまして→
それが 53年前の話でございますから
あっという間にね→
こんな年になってしまいましたけども
まあ その次の日から→
修業でございますから
朝早く 8時ごろ行きましてね→
3時間かけて 毎日掃除をするわけですね。
その間 師匠は眠ってて→
10時ごろ起きますってえと 布団畳んで
方々 掃除したりなんかするというのが→
つい こないだと思ってましたけど
それが 奉公とか何とかというと→
また 随分 違うんでしょうけども
昔は奉公と申しますってえと→
あるじには忠を尽くせ。 ねえ。
忠義心がなくちゃいけないって。
もう 旦那のために 一生懸命 働くという
それが当たり前の時代だったそうですな。
7つか8つぐらいで 入るんですよ。
ねえ 10年たつとね もう 17~18で→
仕事を覚えます。 あと1年間
無給金ですから お礼奉公した。
11年は そこでもって仕事を教わると
一人前になった時代。
それから 給金もらえるという


まあ そういう時代でございますから→
やることは そういう子どもたちですから
まあ 帳場おこしでもってね→
そろばん はじく 帳面をつけるなんてのは
ずっと先のことでした。
一つだけございます 仕事が。
ネズミを捕るのが仕事だった。
あの時分 ネズミというのはね ペストのね
病原菌だっていわれてたんですね。
伝染病ですね。 で ネズミを捕って
どこへ持ってくかと決まってましてね→
交番へ届けるんです。
一番身近でございますね。
で 交番へ持っていくってえと
お金が もらえたんです。
よく あの~ 夏休みね
ラジオ体操やって はんこ押して→
たっぷり たまるってえと
ノートもらえたり 鉛筆もらえたりってのは→
私たち 経験しましたけど
そういうことがあったんですね。
ネズミを捕って交番へ持っていくってえと
お金が2銭もらえたそうです。
もっと楽しみがございまして
ネズミの懸賞というのがあった。
当たりますと 1等が15円。
2銭 3銭 4銭の時代に15円。
これ 大金ですよね。
2等が 10円 3等が 5円。
まあ めったに


当たるもんじゃございませんから→
まあ ネズミを捕るのも一つの仕事だ
という そういう時代でございますが→
まあ 自分の一人息子が
3年間 戻ってこられません。
3年目に やっと戻れる。
これを 世間では 藪入りと申します。
正月の16日と 7月の16日。
古い暦 見ますってえとね→
藪入りと書いてある。 え~ 何で
3年間 戻ってこられないかってえと→
里心がついてね すぐに うちに
帰っちゃうと 戻ってきたくないという→
そういう ホームシックでございましょう。
ですから 3年間 ず~っと→
奉公に就くという。
まあ 親は心配ですよね。
3年目に やっと戻ってくるとなりますと
お父っつぁんも おっ母さんも→
一人息子が帰ってくるってんだから
寝られたもんじゃありませんね。
え~ やっと帰れる息子は
もっと寝られなかったそうです。
「藪入りや何にも言わずに泣き笑い」
という句がありますが→
「おっかあ。 おっかあ。→
かあ かあ」。
「カラスだね お前さん。 何だい?」。
「『何だい』じゃないよ。 今 何時だよ?」。
「12時 回りましたよ。

もうそろそろ寝て下さい」。
「お前 よく そういうこと言えるね。
ええ? 亀が帰ってくるんだよ。→
3年ぶりに。
ええ? ずっと起きてようじゃないの」。
「起きてるったって 今 12時だよ。
ずっと起きてるのかい?」。
「当たり前じゃねえ。
向こうだって うれしくて→
帰れんだから 寝らんねえや。