やって来るもんでございましてね。
(たたく音)
おちか おいちょっと待ってくれ おい。
さっき 裏道だったんだけど
肩が当たったんだよ。
あれ 小平次じゃねえか?
顔は わかんなかったけどあれは確かに小平次だ 背丈がよ。
俺が ガラガラッと
ここ入ってきたら お前 なんだ?
鼠入らずの所へ
とくりを隠したろ。
小平次と
一緒にいたんじゃねえか? おい。
太九郎さん そんな
ふくれっ面しちゃ やだよ。
本当に好いてるのは
お前さん ただ一人なんだ。
言わせちゃダメだよ
こんな事 女からさ。
おちかは
腹の黒い女でございますから→
男たちの そういう気持ちは
もう痛いほど わかります。
ひどい女で。
小平次さん… やっとくれよ。
やる?
やるって… 何をすんだい?
皆まで言わせんじゃないよ。
小平次さん 殺しとくれよ。
ちょっと待ってくれよ。
待ってくれよ おちか…。
俺はよ 殺すって…。
ああ そうかい。 じゃあ あたしは→
近所の人に言うかね
大きな声 出そうかね。
お前さんに無理やり 押し…。
おい! 大きな声 出すな!
だからさあ…→
やっとくれよ。
あたしに惚れてんだろ?
やるよ… やりゃあいいんだろ。
奥州行って… 小平次 殺してくる。
太九郎は 何日も何日もかけて→
小平次がいる奥州へと
やって来る。
(たたく音)
親方 親方。
おっ どうした?
いかがでございましょう?釣りにでも行きませんか?
釣り?
ハッ… そうか。それは考えつかなかったな。
小さな貸し舟屋へ行き→
鳥目を払って舟に乗り込んだ2人。
小平次が後ろを振り返った瞬間だ。
太九郎が 小平次の背中をバーンッ!
いきなり突き落としました!
うーっ!!
沼にズブズブッと沈んで参ります
小幡小平次だ。
助けてくれ! おいっ 何すんだ!
俺 泳げねえんだよ!
舟べりに
四本の指をクッとかける。
これを見て 太九郎が…。
(たたく音)
小刀を抜きますと→
舟べりにかけた四本の指これを端から…。
おめえがいると
おちかと一緒になれねえんだよ。
ブスブスブスブスッ!
(叫び声)
言いながら小平次は
沼へと沈んでいく。
(たたく音)
何日もかけて奥州から江戸へと帰ってくる。
頭の中には おちかに
褒められたい 褒められたい→
そればかりだ。
おちか… おちか!
誰だい?
ああ… 太九郎さんか。
言った途端に
ヒューッと一陣の風。
あんどんの明かりがスッと消える。
なんだ? これ…。 なんだ? これ。
手が勝手に…。
おちか 助けてくれ! おい!
手が…
手が勝手に動いてんだよ!
何やってんだよ お前さん。
自分の手を何して…。
そうじゃねえんだよ。
勝手に この手が動くんだよ。
おちか… おい!
助けてくれよ おい!
おちか! 助けてくれよ おい!
助けろったって…どうする事もできない。
助けてくれよ!
動かなくなった…。なんだ? これ。
今度は動かねえぞ おい!