2021/01/17(日) 14:00〜14:30 日本の話芸 笑福亭鶴二 落語「高津の富」[解][字]


放り出しておいてやったんじゃ。→
ところがな これが夕景になったら

一つもないようになる。→
おかしいな。 どないなってんのんかしらと
思って考えてみたら→
ええ? なくなるはずやがな。→
出入りの者がな 帰りがけに一つずつ かたげて帰ってますのや。→
とかく 金のない者というのは
あさましい心になるもんやないかいな。→
アハ~ッ アハ~ッ アハ~ッ アハ~ッ」。
「うわっ! あの 漬物のおもし石が千両箱でございますか」。
「ああ これもな 話のついでに
聞いといてもらおうかい。→
これは
こっち出てくる半年ほど前やけどな→
うちの孫が
『じいさん 砂遊びがしたいさかい→
砂場をこさえてくれ』と
こない言うもんやさかいにな→
庭師に頼んで


砂場をこさえてやったんじゃ。→
するとな 近頃も
ぎょうさん 人が押し寄せてきて→
何でも
鳥取砂丘とか何とかいう名前を付けて→
皆で ワアワア言うてるってなことでな。
アハ~ッ アハ~ッ アハ~ッ」。
「うわっ! あの おうちの中に
鳥取砂丘でございますか」。
「ああ これもな
ついでに聞いといてもらおうか。→
これは みつきほど前のこっちゃ。
やっぱりな うちの孫が→
『じいさん 水遊びがしたい。→
なんぞ 池をこさえてくれ』っちゅうさかいに→
これもな
庭師に頼んで こさえてもろたんじゃ。→
するとな
何や 大勢の人が押し寄せてきて→
このごろでは
宍道湖とか何とかいう名前を付けて→
皆で シジミ採り大会で盛り上がってる
ってなことでな。→
アハ~ッ アハ~ッ」。
「うわっ! あの ご自分のおうちの中に宍道湖でございますか。→
これはもう 恐れ入ります。→
あの~ 旦さん そのお話につけ込むわけやございませんがな→
近頃 手前ども こんな小さな宿屋だけでは
やっていけんもんですさかいに→
あちらのお世話やとか

こちらの周旋などを→
させて頂いております。→
日が 明日になりまして 久しぶりに高津さんの方で富くじがございます。→
手前どもも その富の札を
売らして頂いておりますねやが→
もう 明日になりましてな
1枚だけ売れ残ってしまいました。→
番号が よろしゅうございます。→
子の千三百六十五番。子の千三百六十五番。→
旦さんのような勢いのええ方やったら
さだめし当たると思うんですが→
これ なんとか1枚お買い上げ頂くわけに
まいりまへんやろかな」。
「おお 富くじ。
それは一体 どないなってますのや」。
「一番が当たりますと千両。
二番でございますと5百両。→
三番なら3百両という
くじになっております」。
「ほう。 すると 何かい
その一番っちゅうのが当たったところで→
千両さえ出したら それでええのんか?」。
「何でございます?」。「いいえいな。→
まん悪うな
その一番ちゅうのが当たったところで→
千両さえ払うたら堪忍してもらえんのんか
っちゅうてんねん」。
「何をおっしゃいますやら 旦さん。
千両 向こうから くれますので」。
「くれる? あっ もうええ もうええ。

そんなん 千両やそこら もろうたかて」。
「まあまあ まあまあ。 旦さんにとったら
そうか分かりまへんが→
我々 庶民にとったら
夢にも見れんような大金でございます。→
なんとか これ1枚 お買い上げ頂くわけに
まいりまへんやろかな」。
「ほ~う。
そりゃ なんぼになっておりますのや」。
「1分ということになっております」。
「1分? 1分っちゅうたら 何かい→
こんな小さな額が1枚やな。→
うちの孫が いっつもおはじきで遊んでるやっちゃな。→
いやいや それやったらな
この賽銭の残りが ここに。→
これでええのんか」。
「ありがとうさんでございます。→
どうぞ この札の方を
お収め頂けますように」。
「いやいや そんなな 大勢の中