2021/01/17(日) 14:00〜14:30 日本の話芸 笑福亭鶴二 落語「高津の富」[解][字]


神さんが夢枕に立たはったんだ。→
『一番の千両は 訳があって
よそへ回さなあきまへんねんけども→
二番の5百両は
必ず おまはんに当てさしたるさかいに→
当てにして待っとかんかい われ』」。

「どこの神さんでんねん それ」。
「私に この5百両 当たったら
どないすると思いなはる?」。
「んなこと分かりまへんがな」。
「分かりまへんって あんた→
人間には想像っちゅうもんが
おまっしゃろ。 何なと言うてみなはれ」。
「そうでんな ほんなら地所でも買うて
家でも建てなはるか」。
「いやいや もう
そんなことは せぇしまへんわ」。
「ほんなら 日本全国 旅して歩くとか」。
「いや もう そんなこと…せぇしまへんわ」。
「ほんなら 米相場に手ぇ出すとか」。
「いや そんなことは せぇしまへん」。「ほんなら…」。 「そんなこと…」。
「何にも言うてまへんがな。
ほんなら どないしなはんねん?」。
「私に この5百両 当たりまっしゃろ。
じきにね 心斎橋の呉服屋へ行ってね→
浜縮緬 1反 買うてきまんね。
これをね 京に紺に染めにやりますわ。→
染まってきたやつをね
真ん中から プツ~ッと切って→
長い長い財布をこしらえまんねん。→


その中にこの5百両の金 細かい銭に替えて→
ザラザラっと入れてクルクルっと丸めると
これぐらいの大きさになりますわ。→
こいつをね 懐へ入れると→
布袋はんみたいにおなかがプ~ッと膨れまんねん。→
わたいの これ 女子
新町にいてまんねん。 ええ。→
年がテンナラ 22ですわ。 ええ。→
いや べっぴん… べっぴんというほどの女子やおまへんけどね。→
もう 色が白うてね 丸ぽちゃで ペコッと
えくぼのへこむ…。 かわいらしい」。
「のろけでっかいな」。 「のろけやおまへん。
まあ ちょっと聞いておくんなはれ。→
私 あんた 久しぶりに行くのにね
こんなとこへ 手 突っ込んで→
弥蔵っちゅうやつは
鼻歌もんで 行ったりまんねん」。
♪♪「赤えり」
「えらい またな 大きな声やな あんた」。
♪♪「赤えりさんでは 年季が長い」
♪♪「あだな年増にゃ 間夫がある」
♪♪「ソ~ ウィアウィ」
「河内ひょうたん山恋の[外:117BACAEB67E3508D23A650B98F3C143]占」。
「あんた
何をごちゃごちゃ言うてはりまんねん」。
「わたいの女子
久しぶりに来てくれるなと思うて→
張り店で待ってますわ。
そこへ 私の声でっしゃろ。→
好きな男の声する時は 蝶々の簪

抜けて出るっちゅうやつでんがな。→
『ちょっと おちょやん 今 表 通ってんの
松ちゃんと違うのんか。→
おちょやん 今 表 通ってんの
松ちゃんと違うのんかっちゅうねん。→
まあ 明かり見たら じきに いねぶるねん。
不景気な子。→
いいえいな。 今 表 通ってんの
松ちゃんと違うのんかっちゅうねん。→
まあ 起こしたら その手で
頭 がしがしがしがし かいてからに→
何のために 簪 あてごうてはんねんな。→
その手で あんた もう また着物あちこち いじるもんやさかいに→
着物が あんた もう 梳子はんみたいに
油だらけになったるで。→
髪結いさんの梳子はんみたいに あんた
油だらけになっとるやないかいな。→
いいえいな。 今 表 通ってんの
松ちゃんと違うのんかっちゅうねん。→
この辛気くさい子。 パッ!』」。
「あんた ようしゃべりなはんな」。
「わたいの女子
しまいに 辛気くそなってね→
草履と下駄と片っぽずつ履いて
ガタポソガタポソ ガタポソガタポソ。→
『あんた どこ行くねん!』」。
「な… 何をしなはるねん あんた。→
人のたもと引っ張ったりしなはんな」。
「『何で うちの表 素通りすんねん』」。「知らんがな あんたんとこの表。→
ちょっと たもと離しておくんなはれ」。

「えらい すんまへん。ちょっとね 話に実が入って→
あんたのたもと かったんですわ。→
『どこ行くねんって お前その辺 一回り 流してくんねんがな』。→
『まあ いつもやったら
すぐに来て すぐに上がんのに→
何で 今日に限って そんな根性の悪いこと
言うねんな。→
もう上がんなはれ 上がんなはれ
上がんなはれ』と言われて→
2階へ トントントント~ンと上がる。